10年ほど前、ケータイ小説なるものが流行っていて、今もあるのだろうか。
そのときに読んだ「イン・ザ・クローゼット」が、印象に残っていたので感想を書きます。
「イン・ザ・クローゼット」は、ネット上でおもしろいとウワサになってました。
いちおう文学志向のわたしは、ケータイ小説なんてバカにしてたワケですが・・・、
面白かったんですよ。
一気に読んじゃいましたよ 。
「恋空」はくだらないし、途中でタルくなって、読むのやめたんだけど、「イン・ザ・クローゼット」は斬新で面白かったわ。
まず、主人公をきれいなものとして描いてないところがイイ。
主人公は、ブスでチビで中卒で田舎者でビンボーで、いいとこなしなんだけど、いっちばん悪いのが、性格。
ひがみっぽいし、嘘つきだし、自己中だし、これでもかっていういぐらい性格が悪い。
最初、こんな主人公共感してもらえないから、ムリなんじゃないの~と読み進めていたら、いつのまにかこの極悪主人公を応援してる、自分に気付いてビックリ。
ストーリーは、コンプレックスだらけの主人公が、美しく華やかなお嬢様に憧れて、売春したお金で整形を繰り返し、ブログで偽りの自分を演じてゆく、というもの。
その過程で、目障りなヤツのブログを荒らしたり、中傷したり、果ては殺生沙汰に放火まで、どんどんエスカレートしていき立派な犯罪者。
だけどこの主人公の魅力の一つは、意外に自分を客観視してるんですよね。
ブスでバカでビンボーで性悪などうしようもない自分を、自分でちゃんと分かってる。
バカなのに、バカじゃないっていうか。
世の中の嫌われ者パターンの一つに勘違いブスというやつがあるかと思うんですが、これは身の程をわきまえず、いかにも美人のようにふるまう、自己愛の強い人だと思うんです。
バブル姫なんてその典型。
いや、バブル姫はかつて群を抜いて美しかったらしいので、その美貌が永遠に続くと勘違いしたので、ちょっと違うかな。
まあ、自分を客観的に見れないという意味では、立派な勘違い女でしょう。
自分を客観的に見ることのできない人は、男でも女でも嫌われますね。
だけど「イン・ザ・クローゼット」の主人公は、バカでブスでどうしようもない自分を自覚している。
だったら身の丈にあった生き方をすればいいのに、それでは満足できず、売春してまでお金を作り、理想の自分を作り上げていくんです。
だからこの小説のおもしろさは、きちんと自分を客観視しながらも、どうしようもない方向に導かれていき、それを自覚している自分がいるってところなのかなぁ。
この作品の魅力の一つは、どうしようもない醜さを持ってしまった、主人公の悲しみがきちんと描かれてるからだと思う。
田舎でおとなしく、身の丈にあった人と結婚して引っ込んでれば、そこそこの幸せが手に入ったかもしれないのに、それでは満足できなかったんですね。
まあ、都会に出てしまえば、お金がほしくなる気持ちも分からんでもない。
関西圏に住んでればそこそこ都会で、東京なんてたいした興味もなかったし、特に大阪人って東京をを敵視しますよね。
だけど数年前に東京に旅行したとき、お金があればこんなに楽しい街はないだろうな、て思ってしまいました。
それに東京って、なんていうか醜いものも美しいものも全てを包みこむような都会ならではのスケール感が、やはり大阪と圧倒的に違いますね。
そんなわけで、実はけっこう東京が好きだったりします。
だからまぁ、東京に出てきた若い冴えないお嬢ちゃんが、いろいろほしくなっても誰も責めることなどできませんよ。
責めるなら罪な街、東京を責めるべきです。
そんな前代未聞のキチクな主人公が、暴れまわるわけですよ。
途中、ブログで知り合った人が家貸してくれるとか、放火してもばれないとか、ありえないだろっていうケータイ小説ならではの、甘さとかユルさとかもあるんだけど、それを気にさせないパワーがこの小説にはありましたね。
それは同時に主人公の生き様のパワーでもあるのかもしれない。
で、このお話は主人公の一人称で語られていくワケですが、すっごい下品な語り口。
この話がダメっていう人は、この下品な語り口に耐えられない人みたい。
だけど時々下品なりに、おってもっていかれるような文章があるんですね。
自分で自分に突っ込み入れてたり、それいっちゃ身も蓋もないねっていう一言だったり・・・。
作者さんは、けっこう言葉に豊かな人だと思う。
わたしこの小説のマネして、このブログで、自分で自分に自虐的なツッコミ入れてるもん。
これは十代、二十代前半のコムスメが書いた文じゃないなって思ってたら、ホントかどうか分からないけど、作者さん四十代というウワサが。
本当は作家を目指してたんだけど、芽がでなくて、ケータイ小説に甘んじてる人なんじゃないかな、って勝手に思ってみたり・・・。
でもこの小説の続編で、マダムが主人公のがあるんだけど、それは面白くなくて、途中で読むのやめちゃった。
しょせん一発屋だったのか・・・。
ちなみに本編とは関係ないが、「イン・ザ・クローゼット~in the closet~」って英語でゲイの隠語らしい。
クローゼットが、性的指向を公表していない状態。
つまりクローゼットに隠してる状態になるのかなぁ?
だから「イン・ザ・クローゼット」は、同性愛などのマイノリティーな性的指向を隠して生きることなんだってさ。
で、「カム・アウト・オブ・ザ・クローゼット~Come out of the closet~ 」が、クローゼットから出る、つまりカミングアウトすることらしいよ。
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