作品情報
刑事コロンボ:ピーター・フォーク(小池朝雄)
殺人犯: 美術評論家 デイル・キングストン/ロス・マーティン(西沢利明)
被害者: 殺人犯の叔父 美術収集家 ルディー・マシューズ
被害者の元妻:エドナ・マシューズ/キム・ハンター(関弘子)
協力者:美術学生 トレイシー・オコーナー/ロザンナ・ホフマン(杉山佳寿子)
被害者の弁護士:フランク・シンプソン/ドン・アメチー(八奈見乗児)
殺害の動機:遺産目当て
- 演出:ハイ・アバーバック
脚本:ジャクソン・ギリス
#6 二枚のドガの絵/ SUITABLE FOR FRAMING (1971年)
殺害と共犯者とアリバイ
物語は、絵画のたくさん飾られたお屋敷で、ルディ・マシューズという老人が優雅にピアノを弾くシーンから始まります。
弾いているピアノ曲はショパンの「別れの曲」ですね。
美しく甘美なショパンの代表曲ですが、これが今生との別れになることを示唆しているのでしょうか。
そして現れた男は、老人の甥、今回のゲストスター、ロス・マーティンが演じる美術評論家のデイル・キングストンです。
物語開始約1分で、デイルは叔父のルディ・マシューズを銃で撃って殺害します。
その後、叔父の殺害時刻をごまかすために、遺体に電気毛布をかけて温めておきます。
さらに強盗の仕業にでも見せかけるつもりなのか、屋敷を荒らしています。
そして二枚のドガの絵を、あえてマシューズ宛と記載された包装紙でくるみます。
部屋を荒らすシーンで、優雅なはずの「別れの曲」が緊張感溢れる響きにアレンジされて、その場を盛り上げます。
モチよ
やがて呼び鈴が鳴り、デイルの共犯者で恋人の美術学生、トレイシー・オコーナーがやってきます。
「人に見られなかったか?」と問うデイルに、トレイシーは「モチよ。」と答えます。
念のために説明しておくと、「モチよ。」は「モチロンよ。」という意味かと思われます。
「モチよ」なんて今や使わないし死言になってしまいましたが、当時は一般的に使われる言葉だったんでしょうか…。
多分、いまどきの若い女の子というキャラクターを打ち出したかったのでしょうね。
時代を越えて受け継がれてゆくような作品に、流行語は使わないでほしいっすね。
興覚めですが、これもコメディー作品と考えると楽しいのかもしれません。
デイルはアリバイ作りのため、トレイシーに後をまかせて、ある画廊のパーティーに行くのです。
デイルのアリバイ作り
有名な美術評論家であるデイルは、画廊のパーティーで大歓迎を受けます。
新鋭画家のサムに、アリバイ作りのため、わざと時間を確認させるデイル。
時間は11時(23時)5分前です。
一方で屋敷に残ったトレイシーは、1時間おきにやってくるガードマンを確認してから、電気毛布を片づけて空に向けて銃を発砲します。
発砲音を聞き、駆けつけたガードマンがマシューズの遺体を確認します。
その間に、トレイシーは二枚のドガの絵と銃を持って、デイルが開けておいてくれた裏口から、逃亡するのです。
開始14分コロンボ登場
ガードマンが通報したのか、番組開始14分で殺人課の刑事コロンボ登場です。
コメディアンコロンボ-1 タバコを注意
マシューズに雇われていたエバンス夫妻が、警察の聴取を受けています。
コロンボがたばこを吸おうとすると
「いけません!
旦那様はここでは絶対タバコをお吸いになりませんでした。」と注意されてしまいます。
素直に謝るコロンボですが、タバコは絵を痛めてしまうのでしょうかね。
クスリと笑えるシーンです。
博物館に貸し出すような貴重な絵が、何枚もあるものすごいコレクションです。
そして電気毛布で温められたマシューズの遺体の死亡時刻は、だいたい11時頃と決まってしまいました。
11時前にパーティー会場にいたデイルのアリバイが証明されたことになります。
コロンボの疑惑-1 遺産を受け継ぐ甥デイルの存在
午前1時過ぎに自宅に戻ったデイルが、警察に呼ばれてマシューズのお屋敷に顔を出します。
現れた途端、どうもコロンボはこの男を疑っていますね。
執事のエバンスに「あの人が新しいご主人になる訳かい?」なんて、それとなく遺産目当ての殺人でないかと裏をとってます。
コロンボ6話めにして、わたしは気がついたのですが、コロンボはとりあえず全ての人をまずは疑ってかかってるんだと思いますね。
本人も
「疑うのが警察の仕事ですから。」
と言ってます。
で、その中で、独自の勘と考察力を使って「この人は犯人ではないだろう。」と消去法で、犯人を残してくのではないでしょうか。
さらに疑わしい人物の、疑うべき点を並べていって、自分の中の犯人像を組み立てていくのでしょうね。
まるでデカルト!
ルネ・デカルトはフランスの哲学者で、「我ゆえに我あり」という名言を残した人です。
デカルトは疑いようのな真実を見つけ出すために、全てを疑って、疑わしいものは消去していきました。
そして最後に残ったのが、全てを疑っている自分の意識です。
全てを疑っている自分の自意識は確かに存在していて疑いようもない、それが「我思う、ゆえに我あり」なんですね。
コロンボは哲学者だったんですね!
コロンボの疑惑-2 絵画泥棒の絵を見る目
荒らされた屋敷から見ると、殺人犯はまず、数々の名画を無視してあまり価値のないバーンバウムの絵に手をかけて額縁から外しています。
恐らく強盗の犯行に見せかけるとき、デイルは名画が傷むのを恐れて、価値のない絵を外して荒らしたんじゃないでしょうかね…。
価値が低いバーンバウムの絵から盗もうとしたことに、コロンボが疑問を投じるとデイルは
「私はいち美術評論家ですよ。それはあなたの領分だ。」
と無碍もありません。
そして架空の強盗犯は結局バーンバウムの絵はそのままにして、最も価値の高い二枚のドガの絵だけを盗んで去ってゆくのです。
その2枚の絵だけで、50万ドルはくだらないのですって。
50万ドル、1971年当時は1ドル=360円か、もしかしたら1ドル=314円に変動している時期だったかもしれません。
1ドル=360円としたなら、50万ドルは1億8000万ぐらいの価値でしょうかねぇ。
やっぱり辻褄が合わないな。
とコロンボが言います。
当初、価値のないバーンバウムを盗もうとした強盗が、急に絵を見る目が肥えてきて、最も価値の高い二枚のドガの絵を盗んだのです。
デイルは
「この世には不可解な事が多いもんですよ。
だからこそ芸術も生まれたんですがね。」
とまあ、美術評論家とは思えない、テキトーなセリフ。
きっとコロンボは疑いを強くしたでしょうね。
コロンボの疑惑-3 開いていた裏口
コロンボは続いて裏口を確認します。
裏口は開いていたどころか、外から開けられたようなのに、警報装置が鳴りませんでした。
本当は自分が鍵を開けておいたくせに
「すると犯人はその道のプロって訳…?」
と問うデイルにコロンボは
いやいやプロならドアより窓から入りますよ。その方が安全ですから。
と一蹴。
そしてヒールを履いた女性警官のサリーを、裏口から表通りまで走らせます。
サリーが駆ける足音を聞いたガードマンは、マシューズの遺体発見時に聞いた足音と同じだと断言します。
犯人はハイヒールをはいていた女性だという疑いが強くなりました。
内心犯人が女性だということがいとも簡単に明らかになって冷や冷やのデイルは
「あの…犯人は女なんですか?」
とコロンボに尋ねます。
一人はね。
あれだけたくさんの絵を狙ったんだ。
多分(犯人が)一人ってことはないでしょう。
それに警報ベルが鳴らなかった事。
こいつがどう考えても合点がいかない。
何者かが中からドアを開けたと考えるよりほかない。
とコロンボが次々犯人像にせまってゆくことに、デイルはあせりを隠せません。
当初コロンボに非協力的だったデイルですが、捜査状況を把握しておきたいのでしょう。
「絵に関することなら何でも聞いてくださいよ。」と急に態度を柔和に変えてしまいました。
コロンボの疑惑-4 もう一つ…1 絵を盗む意味
コロンボは、
もう一つ分からないことがあるんです。
と、有名な絵なら盗んでもお金にかえにくいのではないかと、デイルに相談します。
するとデイルは、外国の秘蔵家に売りつけたり、盗まれた被害者に引き取らせるという方法もあると親切に答えます。
つまり絵を誘拐して、身代金と引き換えに、再度絵を返すという手口ですね。
そうか…。
身代金が目当てならまずあなたに連絡してくるでしょうな。
じゃ こうしましょう。
お宅の電話に録音装置をつないで犯人がかけてくるのを網を張って待ってるんだ。
番号を教えてください。
とまあ、コロンボはいともあっさりと猫の首に鈴をつけるのに成功しました。
デイルは余計なことを言って墓穴を掘りましたね!
ザマーみろ!
そして可哀そうなのが共犯者のトレイシー。
心配でデイルに電話をかけても、録音されている恐れがあるため、デイルは電話に出ることができないのです。
画廊を訪れるコロンボ
コロンボの疑惑-5 画廊の証言
コロンボはデイルがアリバイ作りのために訪れたパーティーの主催者である画廊を訪ねます。
画廊のマダムは、デイルはパリやロンドン専門で、普段は鼻にもひっかけてもらえず、他の画廊仲間からやっかまれたと言います。
そしてデイルに叔父殺しの疑いがかかっていることを感じ取ったマダムは、コロンボに言います。
絵が好きな人ならほしくてたまらないコレクションを持っていた。
その絵が手に入るのなら、私だって叔父ぐらい殺しかねないわ。
コメディアンコロンボ-2 裸婦モデルにたじたじ
その画廊の作品はほとんどは、サムという画家が描いたものでした。
ちょうどコロンボが訪れたとき、サムは裸婦画を描いてます。
裸の美女モデルを見て慌てて顔をそむけて見ないようにする紳士なコロンボ。
滑稽で楽しいシーンです。
コロンボの疑惑-6 デイルの時間確認
コロンボは画家サムに、デイルが訪れた時間を確認します。
「俺は時間の観念があまりない方だから、役に立てない。」というサムにコロンボは
しかし時計を出して比べ合ったとか…。
と、デイルが時間を確認させている前提で話をします。
サムは昨夜、デイルに時計が狂っていると時間を確認しあったことを思い出し、証言します。
コロンボの疑惑-7 駐車係の証言
続いてコロンボは、デイルがパーティー会場で車を駐車したときの、駐車係の青年ジョウに話を聞きます。
そしてまた以下の点について疑惑を覚えます。
ジョウは駐車しただけで、2ドルものチップをもらった。
ジョウは、デイルがカフスボタンを失くしたというので、車中を探したが見つからなかった。
ジョウはデイルに時計が狂ったと言われて時間を確認し、それは11時10分前だった。
駐車係の話を聞いた後、コロンボは画廊にサムの描いた青い馬の絵を借りてデイルのもとへと向かいます。
テレビスタジオを訪れるコロンボ
コロンボの疑惑-8 慌てて電話を切るデイル
16チャンネルでは毎日、デイル・キングストンの美術解説番組『美の世界』を生放送しています。
今日は「ゴヤ」の解説ようですよ。
番組を見届けた共犯者のトレーシーは、テレビスタジオに電話をかけて、デイルをやっと捕まえることができました。
しかしデイルは
「1週間は駄目だって言ったろ。心配しなくても全て計画通りにいっている。」とトレイシーをたしなめます。
するとスタジオに神出鬼没のコロンボが現われたので、デイルは慌てて電話を切るわけです。
その様子をコロンボが見逃すはずもありません。
年で途中で電話を切っちまったんです?
ひょっとして犯人が遠回しに絵のことを…。
と鋭く切り込みます。
デイルは、電話なんていくらでもかかってくるから、いちいち相手にしていられないのだとその場をしのぎます。
コロンボの疑惑-9 犯人からの電話がない
コロンボはデイル宅の電話に仕掛けをしたのに、獲物が釣れないと嘆いています。
デイルは、殺された叔父マシューズの元妻エドナが、今もマシューズ姓を名乗っているので当たってみればどうかと勧めます。
コロンボはすでに今朝訪れて、電話のモニターをしてきたと答えるのです。
コロンボのほのめかし-1 裏口の警報装置が鳴らなかった
コロンボはマシューズ邸の裏口が開いたのに、警報装置が鳴らなかった件について、再度デイルに確認します。
ガードマンまで雇って盗難に気をつけていた叔父が、やたらと誰かを通さないだろうと言います。
暗に身内の犯行、デイルの犯行であることをほのめかしているんですね。
デイルは「そんなつまらん事を言うためにわざわざ来たのかね。」と少々ご立腹。
アタシはマメなたちでね。
それに足で稼ぐ主義なんですよ。
コロンボのほのめかし-2 デイルのアリバイを断言
コロンボはデイルが参加したパーティーの画廊に行ってきたことを伝えます。
マシューズの殺害時刻は11時頃、その時間デイルが画廊のパーティーに参加していたことは何人もの人物が証言しています。
だからコロンボははっきりとデイルに
ホシはあんたじゃない。
と言い切ります。
デイルは
「言うに事欠いて何てことを。
この私が叔父に手をかけるような人間に見えるかね。」
と呆れた様子。
長い事刑事なんかしてるとつい疑り深くなっちまうんですよ。
とコロンボはいつもの言い訳を口にします。
コロンボのほのめかし-3 駐車係にトランクをのぞかせた
さらにコロンボは
おまけにつまらないことが気になりましてね。
カフスボタンを捜すのに車のトランクまでのぞかせるのは少し異常じゃないかとか。
と、デイルの不信な行動を指摘します。
デイルは、車のトランクにトップコートを投げ込んだため、その時に外れたかと思って捜させたと答えます。
そしてズボンのすそからカフスボタンは出てきたのだと説明します。
コロンボのほのめかし-4 アリバイがあり過ぎる
すべてのアリバイに完全な答えをすでに準備すみのデイル。
コロンボは
あんた不思議な人ですな。
どんな事を質問してもまるでお役所のお偉方みたいに適切な答えが跳ね返ってくる。
普通はなかなかこうはいかないものです。
アリバイを調べてもね。
大抵の人は何時に何してたかなんて正確に覚えちゃいません。
それが普通です。
ところがあんたに関しちゃ何時に何したかはっきりわかっている。
普通ここまで証言がそろう事ってないんですよ。
さて、このシーンを見てわたしは、昔読んだ江戸川乱歩の「心理試験」という作品を思い出しました。
コロンボと同じ倒叙形式で、大学生がお金目当てに老婆を殺すのです。
その後、疑いがかかり心理試験にかけられるのですが、頭のいい大学生は、完璧に答えを準備していきます。
そのあまりの完璧さに、名探偵・明智小五郎は逆に疑いを向けるのです。
そして明智は大学生にトラップを仕掛けるのですが、結末はもう忘れてしまいました…。
ご自身で本を読んで確かめてみてね!
コロンボのほのめかし-5 空の車のトランク
コロンボはさらに
不思議なのは何で車のトランクが空なんです?
とデイルに問います。
デイルは「性質なんでしょうね。」と答えます。
しかしわたしも不思議なんですが、トランクが空だとダメなんでしょうか。
ここがストーリーにどうつながるか、全く不明なんですけど。
あえてカフスボタンを捜しやすいように空にしておいたのでしょうか。
謎が解けません!
コロンボのほのめかし-6 うちのカミさん-1
忙しいと言って去ろうとするデイルをさらにコロンボは追いかけます。
うちのカミさんのおやじが西部劇の大ファンでしてね。
馬が大好きなんですよ。
と、今回初、うちのカミさん登場ですね。
コロンボが画廊で借りたサムの青い馬の絵を見せるとデイルは
「こんな物はまあ芸術でも絵画でもありませんよ。」とサムの絵を酷評。
するとコロンボは
どうも分からないな。
忙しい体でそんなつまらん画家の絵をどうしてわざわざ見に行ったんですか?
とお得意のほのめかしです。
デイルは、
この手の画家の展覧会に行って批評を書いて批判すれば読者に受けて、手っ取り早くお金になるからだと、説明します。
人をけなして金になるなんていい商売ですな。
コロンボのほのめかし-7 もう一つだけ-2
いい加減、イライラ最高潮のデイルに
ああ もう一つだけ。
いやいや10秒で済みますから。
と、定番セリフ「もう一つだけ。」を使ってコロンボは食らいつきます。
デイルのアパートに、芸術の話をしたり本を借りるために、2~3度寄ったのだと言います。
家宅捜査を疑うデイルはもう怒り沸騰。
「気の済むまで引っかき回すがいい。
ベッドの下から天井裏まで鼻ならしてかぎ回るがいいだろ。
盗まれた絵でも見つかると思ったのか。
何なら鍵もお貸ししよう。」
と見事コロンボの挑発に乗って、鍵を差し出すのです。
「疑われたままじゃ気色が悪いよ!」と言って。
コロンボは
それじゃあまりにも好意に甘えてるようでどうも…。
と遠慮、からの~
せっかくですからやっぱりお借りしましょう。
あ…お忙しいところお邪魔してすみません。
と、シレッとした様子でデニスの手から鍵をひょいと取って、帰ってゆきます。
まあ…、何と言いますか、ちゃっかりしていると言いますか、ずうずうしいと言いますか、したたかと言いますか…。
すっぽんのように一度食らいついたらはなさないコロンボ。
なのに茶目っ気たっぷり。
わたしはもう、コロンボになりたいですね!
明日に続きます。
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