新しくやってきた独裁者ヒトラー所長は、営業所を大改革するために、抹殺リストを作っていた。
ヒトラーに従わないため、退職に追い込む三人の社員リストである。
そのうちの一人が、この記事で少し書いた北野主任である。
そして最後に辞めていったのが、このエントリーに少し出てきた北野主任です。
ロスジェネ世代 下いびりの上へつらい 驚くほど性悪人間が集まるパワハラオフィス P企業4
今回は少し、北野主任の退職までの流れを書きたいと思います。
北野主任は、月に一千万円を売り上げるスーパー営業マンであった。
以前の所長や、他の上役からの信頼も厚く、ちやほやと機嫌をとってもらう側だった。
売上の悪い月、前所長がゴマをすりすりしながら、
「今月、キタノちゃん頼むわ~。」
とお願いすると、ポンポーンと、2~300万ぐらい、すぐさま売り上げてくるようなやり手だったのである。
しかしやり手というのは、実はずるいことも得意であるということ。
北野主任は、とても一人では面倒を見切れないような膨大な顧客を独り占めしていた。
これはどこの営業職でもあることだと思うが、ベテランが上客を抱え込み、新人には与えない。
するとなかなか新人は売上をとることができないし、育ちもしない。
お金持ちの上客を独り占めして、常に温め続けてるんだもん。
そら、数百万ぐらいポンポーンと即座に売り上げてくるわな。
ただし一方で、北野主任は、たいへん顧客を大切にして、熱心にお世話をしていた。
簡単な修理業務などは自ら行い、マメに顧客をメンテナンスすることで信頼も得、いつでも売上に転化できる状態を作っていたのである。
まずヒトラー所長は、北野主任からこの二つの武器を取り上げた。
一つは北野主任が独占する膨大な顧客を取り上げ、二人の新人社員に分け与えた。
いままでどの所長も、北野主任が叩き出す数字に目をくらまされて、上客一人占め営業を、見逃していた。
しかし、北野主任よりはるかに若いヒトラー所長が、とうとうこのキタノ包囲網をぶっ壊したのである。
さらにヒトラー所長は、北野主任がマメに行っていた顧客メンテナンスも禁じた。
顧客メンテナンスは、メンテナンス課にまかせておけばいい。
顧客をメンテナンスするひまがあるなら、営業活動に集中して、一つでも売上を持ってこいというのが、ヒトラーの言い分である。
確かにヒトラーの所長としての言い分は、1ミクロンも間違っていないと、わたしは思う。
しかし北野主任の言い分としては、メンテナンス課にまかせるとクレームにつながるから自分でメンテナンスまでやりたいんだと。
まず営業が窓口になって、お客様の要望を聞く。
そのお客様の理想を、自らかなえる営業と商品提供とメンテナンスをして、顧客満足度を高めたい。
それが北野主任の仕事のやり方であり誇りでもあるのだ。
この言い分も、間違ってはいない。
さらにヒトラー所長が営業所で行った改革は、利益のある商品だけ売ればいい。
利益の出ない商品は売る必要もないし、利益のある商品に転換しろということであった。
しかしこの業界の恐ろしいところは、必ずしも利益のある商品が、良品とは限らないってことである。
実際北野主任は、利益のあるP企業の一押し商品を、脆弱という理由で売ることを拒んでいた。
お客様のためにならないからである。
その北野主任の意に反して、ヒトラー所長は、主任が大嫌いで売りたくないお客様のためにならない商品を、率先して売れと命令する。
北野主任だけでなく、以前にチラリと登場した、月に一千万円売り上げる一千万店長も嘆いていた。
「もうこのやり方だと、転職できず、このP企業で骨をうずめるしかないな…。」
つまりP企業という業界一位の大企業で、利益のあるオリジナル商品ばかり売らされると、その知識しかなくなってしまう。
売る必要のない商品については、当然知識が身に付かない。
すると、ある特定商品しか売る技術がない偏った営業マンになるというわけだ。
よって転職したくても、その特定の知識しかないのであれば、他社では通用しないってことです。
だってP企業にしかない商品知識が豊富だからって、他社で何の役に立つ?
たいていの企業はほしい人材は、あらゆる商品知識に精通した人材なのです。
その企業の最大の目的が、利益を出すということであるならば、ヒトラー所長のやり方は間違ってはいない。
しかし商品知識が豊富で経験豊かな有望な人材を育てるという意味では、正しいとは言い切れませんなぁ。
そして自分の営業マンとしての全ての理想と誇りを奪われてしまった、北野主任もこう怒っておった。
「言われたことだけしか、してはいけないのなら、それはもう人間じゃない。
俺らただのロボットや!」
北野主任は、ヒトラー所長を恨みに恨み、憎みに憎むようになる。
そして何と!
とうとういつでもヒトラーを暗殺することができるように、かばんに刃物を忍ばせて持ち歩くようになった。
それを得意げに皆にしゃべる。
一千万店長が、なだめるのがたいへんだったと嘆いていたそうな。
派遣社員の女の子にまで、北野主任は刃物を持ち歩いていることを自慢していたという。
実際にその刃物を使うことはなかったけれども、持ち歩くことによって、
「いつでもアイツを殺せる」て思うと心が落ち着くのかもね。
自分の冷静さをたもつお守りみたいなものでしょう。
そんなこんなで、オフィスはいつもギスギスして空気が悪かった。
わたしは内勤なので、毎日オフィスにいるからあまり感じなかった。
しかし外出の多いメンテナンス課や営業マンたちは、帰社したとたん、所長がいるかどうか空気で分かると言っていた。
所業がいる日は空気が悪く、いない日は空気が和やかなんだとさ。
だからもう、帰社するのが怖いからイヤだと言って、帰ってこない人もいたよ。
直行直帰というヤツですね。
そしてとうとう北野主任は退職した。
北野主任は50代後半で定年まであと数年を残すだけである。
わたしからしたら、所長なんてどうせ3年もしたら変わるんだから、そのぐらい我慢すればいいのにって思う。
その我慢がきかないほど、所長への恨みがつのっていたんだろうね。
まあ、今まで築き上げてきた自分のキャリアを全て否定されたも同然だからな。
で、北野主任は皆への退職の挨拶もわざと所長のいない日の朝礼にすませた。
「ここでは自分のやりたい営業ができない。」と言っていた。
送別会も当然所長は呼ばなかった。
北野主任は長くこの営業所にいたから、ほとんどの社員は送別会に参加していたと思うよ。
これでヒトラー所長は、当初の抹殺リストにあった、全ての社員の抹殺を完了させたことになるね。
北野主任が退職してからも、ヒトラー所長はぷりぷり怒っていたよ。
以前からだけど、北野主任を大うそつき呼ばわりしていた。
というのは、北野主任はいつでも売上に転化できる顧客を常に温めていた。
そして、自分の成績が悪いときのストックとして隠し持っていたというわけである。
それが気に入らなかったのか、ヒトラー所長は、今持っている売上可能案件全部出せ!って怒っておった。
しかしそのいつでも購入してくれるお客様を上手にコントロールするのも、北野主任というベテランだからできるテクニックやしなぁ。
当然、お客様との信頼関係を築いていないと、いつでも購入してくれる状態は作れない。
営業目標を達成できている以上、売上のとれない月のために、顧客にいつ商品を売ろうが、営業マンの自由やん。
それでボーナスやら査定やら変わってくるんだからさー。
しかしその個人的な事情を無視して、営業所の成績、つまり自分の成績のことしか考えないのがヒトラー所長。
まあ、とりあえず、北野主任に刺されなくてよかったね!
でもそのうち誰かに刺されるかもね!
それはころんかもしれないね!
こうやってブログに書かれてるだけで、公開処刑も同然だからな。
お互い身バレしないように、気よつけよー!
わが闘争(上下・続 3冊合本版)【電子書籍】[ アドルフ・ヒトラー ] 価格:2,052円 |