懇親会はやがて終わりを告げる。
いつものごとくわたしは、帰りの方向が一緒のアトム部長と帰ろうと思った。
声をかけようとすると、アトム部長は、ワンマン常務につかまっていた。
二次会に誘われていたらしい。
で、わたしはどうしよう、一人で帰ろうかなと思っていたらワンマン常務が
「ころんさん、今日はケチ社長の前の席で、喋れなくてストレスたまってるやろう。
おいで。」
と言われたので行くことにした。
ケチ社長は帰って、後はナオミ課長が幹事をさせられていた。
わたしの好きだったあの人はどうするのかな~と思っていたら、信号を待っている様子だった。
帰るのかな、て思ってたら、いつの間にか二次会についてきていた。
二次会に行きたかったのか、二次会には行くものだと思い込んでいるのか、知らんけどいつの間にかいた。
二次会はカラオケだった。
わたしはアトム部長の隣の席だった。
で、ワンマン常務が、またわたしに社長がどうとか話しかけてきたのかな。
ちなみにケチ社長とワンマン常務は仲が悪い。
派閥争い真っ最中。
ケチ社長の話があまりにつまらなかったことに、ストレスをためていたわたしが、
「ケチ社長は、どうやったらあれほど、話をつまらなくできるのか分からん。」
と言ったら、ワンマン常務は大喜びだった。
時々わたしはこういう使われ方をする。
普通なら言いたくても言えないことを、わたしがあまりに簡単にさらっと言ってのけるので、周りの人たちはそれを聞いて溜飲を下げるのだ。
そのわたしの攻撃力が、自分の敵に向かっているうちはいい。
が、わたしは誰に対しても、好きな人にたいしてもそうなので、いつかその刃は、あなたに向くかもしれないよ。
わたしを相手を攻撃させる刃として上手く使うくせに、いざ自分にその刃が向いてきたら怒る。
全く人間ってのは、勝手で醜いものですわな。
その二次会に参加していた、お人よしの部長、お人よしだから人好部長と名付けよう。
人好部長が、わたしとアトム部長が並んで座っているのを見て
「二人を見てると癒されるな~。」と言った。
わたしがアトム部長のことを大好きなのは社内で有名。
アトム部長はわたしが大好物の高学歴、京大卒。
おぼっちゃまだからなのか、性格も温厚で品がある。
顔も男前。
一人で業務と責任を抱え込んで遅くまで残業し、過労死してもおかしくないような働き方をしているタフな男。
だから人間でなく、ロボットだって言われている。
そこでアトム部長と名前をつけたのです。
一度宴会の席で酔っ払って、
「わたしは恋愛感情とかそんなヘンな目で見て、でアトム部長のことを好きと言ってるんじゃない。
人として尊敬できるから、好きと言ってるんや!」
と言ったら、このこはホンマにアトム部長が好きなんやな~と、墓穴を掘っただけだった。
といっても、アトム部長は当然既婚者で子供も二人いる。
わたしが好き好き言ったところで、どうにもならない関係ですので、それが心地いいのです。
独身の男性、たとえばあの人を好き好きと公然と、言ってしまうと、くっついちゃえ~とかなって、ふったふられたがはっきりするという恥ずかしい結果が皆に知れ渡ってしまう。
だけどアトム部長はすでに結婚済み。
ふられることもふることもない。
無理にくっつけられることも、引き裂かれることもない。
正々堂々とプランクトンラブで、好きと言えるのである。
まあそんなことはどうでもいい。
とにかく、わたしはアトム部長が好きということになっている。
それを知っている人好部長は、わたしとアトム部長が並んで座っているのを見て、
まるで夫婦のように扱い、「二人を見てると癒されるね~。」とニコニコしながら目を細めたのである。
ここにいる誰もわたしがあの人にこっそりとチョコレートを渡したことを知らない。
さっきまでそのことで、あの人を責め立てて痴話げんかのような出来事があったことも知らない。
わたしとあの人だけの、チョコレートのようにほろ苦い秘密。
ちなみにカラオケでもあの人は、性欲性欲って言ってた。
ドリンクが運ばれてきて、渡してくれるときに「これ、性欲ドリンク」とか訳の分からないことを言っていた。
わたしが先ほど責め立てたから、アタマぶっ壊れたとか?
ころんの人格破壊力、すげーな。
わたしはそれほど歌が上手くないので、カラオケではあまり歌わない。
というか、カラオケ自体、職場の人と付き合いでしか行かない。
なるべく歌わないようにしてるんだけど、確かその日は、人好部長とデュエットで、「ロンリーチャップリン」を歌ったと記憶している。
デュエットやったら、歌う量が半分ですむやん。
だからいっつも誰かテキトーなおっさんを誘って、ロンリーチャップリンを歌う。
わたしはクラシックと洋楽しか聞かないもん。
ダッセーJポップなんて歌ってられっかよ。
だからカラオケではあんまり歌わない。
洋楽なんて歌ったら、しらけるしね。
あの人は「シングルベッド」を歌っていた。
絶品だったなー。
アトム部長は長淵剛の「ヒロイン」。
これもよかったなー。
そして驚くべきことは、本編にはあまり関係ありませんが、ナオミ課長がブリブリしながら「恋するフォーチュンクッキー」を歌っていた!!
アラフィフ更年期おばさん、若作り頑張るなー。
ナオミ課長は川島なおみ似でもあるが、松田聖子っぽくもある。
わたしは翌出勤日に、このことをベラベラと言いふらす。
「ナオミ課長の恋するフォーチュンクッキーが聞けただけでも、行ったかいがあったで。
ナガイ部長も紙袋さんも、何で来なかったのですか。」とね。
皆、さすがナオミ課長だーとびっくらこいとった。
ナガイ部長も、「えー、それ聞いてる人、引いてなかった?」って言ってた。
失礼なっ。
ナガイ部長は基本寡黙な人だが、たまに毒舌がすごいで。
時間を、カラオケに戻そう。
というか、カラオケも終わって、解散ということになった。
しかし帰り路、関東からやってきた関東常務。
もちろん関東常務は、泊まりなのだが、「独身どもはもうちょっと付き合え。」と、人好部長(既婚者)とあの人をひきとめた。
もうちょっとあの人といたかったわたしは
「わたしも独身ですけどね。」と言ったら思惑通り、「じゃあ、ころんさんも付き合え。」と言ってくれた。
どうせわたしは未練たらしい性格ですよ。
こっぴどくふられた後なのにね!
わたしは「アトム部長も行きましょう。」と誘って、その5人で三次会へと向かった。
その三次会は、酔っ払った関東常務が一人で喋っていたので、あんまり他の人とは会話できなかった。
で、終電の時間が来たので、わたしとアトム部長は二人で先に帰った。
あの人と関東常務と人好部長は、そのまま三人で飲んでたみたい。
そしてその翌出社日、わたしはちょうどあの人に見てもらう書類があった。
で、その書類を持って、あの人の部署にむかう。
そして書類を見てもらうついでに、
「先日はぶしつけなことを申しあげまして、失礼いたしました…。」
と謝っておいた。
あの人は
「え?ぶしつけ?
…ああ、…。
いいえ。」
みたいな、どうでもいいような、よく分からん反応だった。
そしてわたしは続けて
「あの夜は、だれが支払してくださったんですか?」と聞くと、人好部長だとのことでした。
そして人好部長にお礼を言っておきました。
これで終わり。
あの人とわたしのお話は、これで終わりです。
終わりどころか、何も始まってもいませんがー。
でも、あの夜はあの人とたくさんお話できて、楽しかったわ、嬉しかったわ、幸せだったわ。
甘酸っぱくもほろ苦い、恋の思い出。
あの人はわたしのことをもうとっくに忘れているでしょう。
わたしも忘れていて思い出すこともなかったのですが、今回R会社の記事を書いているうちに思い出したのです。
もともとは、転職就職シリーズとして始めたので、あの人との恋の結末を書く予定はありませんでした。
しかし記事を書き進めるうちに、いろいろ思い出して、書いておくことにしました。
だって、好きな人がいたから給料安い会社を辞めれなかっただもん。
その人とどうなったかは、やはり書いておくべきでしょう。
以前のブログで、あの人については色々綴っていましたが、ちょうどチョコレートを渡すところで、ほったらかしになっていました。
多分公務員試験やら就職活動やら資格取得やらモロモロで忙しくてブログを放置したんだろうね。
そのときから、今も続けてわたしのブログを読んでくれている人がいるかは分からない。
とはいえ、中途半端にほったらかしていた、わたしの恋は、このような結末をむかえていたというわけです。
今回きちんと書くことができて、まー、よかったんでねーの。
こうやってブログを書いていると、あのとき感じたときめきや高揚感、ほろ苦い気持ちをまるで昨日の出来事のように思い出す。
もうあの人を好きという気持ちは、全く持って残ってはいないのだが、それでもあんな風に人を好きになることはないんだろうな。
そういう意味では最後の恋だったのかもね。
これからも誰かを好きにはなるだろうし、恋もするかもしれない。
しかし、あの頃のような少女のような恋をすることは、もうないと思いマンモス。
もうちょっと分かりやすくいうと、当時はポエムのように、ブログにわたしの気持ちを綴っていた。
ポエムのように文章を綴れるような恋はもうないだろうなということです。
わたし自身が少しばかり成長したのか老化して感性がにぶったのか、ポエムのように出来事を綴れなくしまったのです。
漫画も描けなくなってしまったしね。
そしてわたしは婚活を再スタートさせる。
このブログの最初に続くというわけでした。
このブログの最初に続く
終わり
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