結婚相談所で出会った初老のカップルだが、結婚後の生活についてお互いかみ合わず、重たい雰囲気が続くある居酒屋の夜でした。
どういう流れそういう話になったのだろうか。
多分わたしが、女を怒らせ続けるセーブタさんが、まともな恋愛をしたことがあるのか疑問に思って聞いたのであろうか。
恋愛の話になったと記憶している。
それも相も変わらずわたしがセーブタのことをネチネチと責め続けて、婚約破棄の慰謝料10万円セコ過ぎとか、小さい女の子を車に閉じ込めて結婚をせまるとか異常とか、その女性には遊ばれてたんですね、とか、過去の恋愛のダメ出しを延々と続けていくだけ。
男からしたら地獄だわな。
するとセーブタは、
「ころんさんは結婚を考えた男性と、どうして結婚しなかったんですか。」
と逆襲してきた。
逆襲といっても、特に強い言い方とか嫌味ではなく、素朴な疑問というような聞き方だった。
そのときわたしの頭にふと浮かんだのは、フレディの存在だった。
わたしはかつて、フレディのことをひどく傷つけたことがある。
何かしたというわけでもなく、弱っているフレディの傷口に塩を塗って、ぐりぐりといじくりまわしたあげく、自業自得だねって嬉しそうな顔をして笑ってやったのだ。
フレデイの不幸を喜んでやったのだ。
あのとき、表情のないうつろな瞳でわたしを見つめたフレディの顔を、わたしは忘れることはないだろう。
あれは多分、絶望という名の顔だった。
わたしに絶望したのか、人生に絶望したのかしらないけれど、あのときフレディは絶望していた。
だからフレディはわたしとなんて、絶対結婚しようとなんて思わないんだ。
幸せではなく絶望を与えてやった女と結婚しようとする男なんているまい。
きっと今も心のどこかでフレディは、わたしに絶望しているんだ。
「え…。何となくわかりませんか?」
と、突然のセーブタの逆襲にどう返事をしたものかと、多少慌てながらもわたしはセーブタに言った。
「結婚の段階になって、わたしがあれはどうするの?これはどうするの?ってつめていったら、向こうがイヤになったのかなぁ…。」
と、テキトーにぼやかしたわたしの説明に、セーブタはこともあろうか。
こともあろうか
こともあろうかだよ。
あぁ~と納得した様子で、
「その彼、僕に似てますね。」
といけしゃあしゃあと言いやがった。
ハァアアァアアアア??!!
このセーブタの感想は、わたしにとってはあまりにずうずうしいふざけた言い分だった。
まずわたしはまったくセーブタのことが好きではない。
今まで一度も好きだなんて思ったこともない。
むしろ嫌いやで。
ああ、わたし、セーブタのことがずっと嫌いだったんだな~。
でもフレディのことは本当に好きだった。
どうして一度も愛を勝ち取れていない男が、涙が出るほど愛された男と自分は同等かのように語れるのか。
まさかとは思いますが…
まさかとは思いますが…
わたしが前の彼と似た人を好きになったとか、自分がわたしの好みのタイプだと思い込んでるとかないよね!
付き合ってと言われて、はい、と言ったら、女はその男のことを好きに決まってるとか?
そうかも!
モテない男ってそうなのかも!
わたしのセーブタへの態度、愛がないにもほどがあるやろ。
分からんか?
そのハゲあがった頭では分からんか!
オエオエオエッ。
わたしがセーブタ好きとか気持ちわるーい!
おこがましいことこの上ない。
月とすっぽんやで。
自惚れんなよ、ボケェー!!
ずうずうしくて勘違いがひどくて、ヘドが出る!
大切な思い出を汚された気分やで!
バカバカバカバカバカ!
カバ!
「いや、全然違いますよ。
むしろ真逆ですよ。」
と、わたしは不快さをあらわにしながら言い返してやった。
続く