職場で7歳年上のスーパー営業マングリーソンさんに想いを寄せるプチ初老ころん。
しかしグリーソンさんが所長に出世してしまい、底辺事務員のころんにとっては高根の花、手の届かない存在になってしまったかのように思えた。
思えたのだが、席が近くなったり、秘書的な業務を頼まれるようになって逆に交流が増え、距離が近くなったのである。
特にわたしの上司である、還暦ベテラン総務長が、若い所長であるグリーソンさんの面倒をよく見ていてあげてた。
この還暦おじさんは目がギョロっと大きくて、バーバパパに似てるので、バーバパパ総務長と名付けることにする。
わたしを正社員にしてくれた前所長、浅田さんは、優秀さの裏返しにパワーハラスメントでも有名な人だった。
パワハラで何度も転勤を繰り返し、パワハラがなければもっと出世していたと言われるほど、貫禄のある激しい一面もあった。
わたしには優しかったけど、ときどき人殺しみたいな目をすることがあって、その恐ろしさを垣間見ていた。
あの貫禄は、2.3人殺さないと出ないで、とわたしはこっそり陰口をたたいていた。
殺すといっても殺人ではなく、社会的に殺すって意味だけどね。
わたしにとっては恩人で大好きな所長だったけど、パワハラを受けた人はひどく嫌っている人もいたようです。
昔はタバコの入った灰皿を投げ散らかしていたらしい。
誰が片付けるんだろ。
浅田所長は特にわたしの上司であるバーバパパ総務長によく八つ当たりをしていた。
機嫌が悪いときは 、
「お前は気楽でいいな!」
「お前は一生ここで飼い殺しじゃ!」
「お前は北海道まで飛ばすぞ!」
などと暴言を吐いていた。
言葉だけ聞くと下品で野蛮だけど、コテコテの大阪人の60代前後なんてこんなもので、どこかひょうきんさもただよっていたのはそのお人柄のなせる業であろうか。
一方で新しい所長であるグリーソンさんは、弟タイプで甘え上手。
わたしのような底辺事務員にさえ
ころんさんの協力がないと僕はやっていけへん。
とか
皆の協力があって成績を達することができて、本当にありがたい。
嬉しかったです。泣きそうや。
なんて、歯の浮くようなことを言う。
もともと年上マダムに気に入られて、売上を取る営業スタイルだったので、上から下のものにガンと言うのが苦手みたい。
何も分からない生まれたてほやほやの所長だったので、初々しく、逐一わたしの上司であるバーバパパ総務長に相談していた。
総務長はそんなグリーソンさんがかわいかったのか
「所長はドーンとかまえとってくれたらいいのですよ。」
とよく所長としてのたちふるまいをアドバイスしていた。
グリーソン所長のあまりのかわいさに、浅田という人食いライオンから、キュートなうさぎちゃんがやってきたとばかりに、総務長の目はとろんと溶けていた。
わたしはそれを見てケラケラ笑っていた。
「グリーソン所長がこれからどんな所長に変わっていくか楽しみですね。」
と他人事のように、総務長はつぶやいていた。
それはわたしも懸念していて、このままかわいがられ上手の優しい所長でいてくれればいいのだけど、そんな甘いものでもないだろう。
株式上場企業である大手企業で、売上て当たり前という大きなプレッシャーと責任から、いつか悪い方に変わっていくのだろうかと漠然と思っていた。
あるとき、グリーソンさんが成績不振に苦しんでいたときのこと。
「所長は一国の主ですから、たいへんですね。」
と他人事のように総務長は眺めていた。
そこでわたしは、グリーソン所長とバーバパパ総務長の会話に割って入り
わたしいつも浅田所長が、バーバパパ総務長に「お前は気楽でいいな!」という暴言を聞いているのがイヤだったんです。
でもこの総務長の他人事のような様子を見て、初めて浅田所長の気持ちが分かりました。
と言ったら、グリーソンさんは喜んでいて
「え!?所長の苦労、分かってくれた?」
と喜んでくれた。
後で総務長に、「所長との会話に入ってこんでよろしい。」って怒られたけどね。
このころ、所長になりたてで右往左往していたグリーソンさんを癒せる存在にわたしはなっていたと思う。
グリーソンさんはわたしのことを気にかけてくれていたと思う。
だってさー、転勤したじーさんが、たまに営業所にやってきてたのね。
そのじーさんが荷物を片付けてくれなくて、ある課長からわたしはいっつも責められてたの。
わたしを間にはさまず、直接二人でお話していただけませんか?
で、言うわけよ。
するとじーさんはわたしに泣きついてきて、今の営業所で車を支給されたら取りにいくから、もう少し預かってくれって言うのよ。
仕方ないから、その荷物、ある課長の目が届かない女子更衣室にこっそり隠しておいてあげた。
で、そのじーさんは、たまにふらっとやってくる。
わたしが荷物早く何とかしてと注意しようとすると
「その日は目の病院行かなあかんねん。」
「明日は血圧の病院だ。忙しい」
ともう病院行かないといけないばっかり言うからさ、年を取ると病院通いで忙しくなるのねと思うと切ないやらやるせないやら。
もう荷物取りに来てっていうと、病人の体にムチ打つようでわたしが悪者みたいじゃない。
で、グリーソン所長に
あのおじいさん、病院行かなきゃばっかり言うから、聞いててしんどくなるんですよ。
とグチると
きっところんさんの笑顔を見に来てるんちゃう。
と慰めてくれる。
そうかそうか。
グリーソン所長こそ、わたしの笑顔に癒されておるんだね。
笑顔が女性らいいとか、笑顔がいいとは、よく言われることです。
わたしみたいな年増でデブでブサイクは、とりあえずニコニコしておかないと、誰にも好きになってもらえないからね。
またあるときは、グリーソンさん緑内障か何かの予備軍で、将来的に失明の可能性があるんだって。
ふーん、て聞いてると
将来はころんさんが介護してくれるんやろ。
目が見えなくなったら、手を引いてくれるんやろ~。
なんて言ってくる。
ねえ、これってプロポーズ?
介護しする=老後の面倒をみる=老後一緒に過ごしたい=結婚して
ってことで、あんまり嬉しくない方のプロポーズだよね。
モテないがゆえ、プロポーズの経験がほとんどないので、これをころんの数少ないプロポーズの一つとして数えることにする。
それともわたし、自分でばれてないと思ってるだけで、グリーソンさんにたいして好き好きオーラが出まくってるのかしら?
またあるとき、お昼休みを皆で過ごすお部屋があるの。
わたしはたまに職場で一番仲良くしている後輩さんと、別のお部屋でお昼を食べたりしている。
後輩さんは同じフロアにある別会社、わたしの会社にとって親会社にお勤めです。
するとあるときグリーソンさんが
ころんさん、今日昼休みおらんかったやん。
と気にかけてくれる。
なんだ、グリーソンさんが来てたのなら、そっち行ったのにと思いつつ
今日は後輩さんと一緒にお昼ご飯食べてたんですよ。
所長も今度、後輩さんと行きましょう。
と誘ってみると
行く。
だとさ。
ねえ、これいけるんとちゃうん?
絶対わたしのこと、気にかけてくれてるよね。
ただの職場の同僚から、ちょっと気になる女性として、ころん着実に進んでおるんとちゃうん?
だがこのころ、グリーソンさんはころんの本当の恐ろしさを知らずにいた。
わたしもわたしの中の激しさを、グリーソンさんに見られる日がくるなど思いもしなかったのである。
続く
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