結婚相談所でお見合いした殿方セーブタさんと、交際成立したものの、初デートで別れを決心したプチ初老ころん。
しかし必ずしや、縁結びで有名な野宮神社に、昔の男にもらったお守りを返すというミッションだけは、本日やり遂げなければならない。
炎天下の中、セーブタに引きずりまわされたため、疲れた体を抱えながら、わたしたちははやっと野宮神社にたどりつくことができた。
驚いたことには、この野宮神社、全くご利益がないのに、お参りするのに随分と人が並んでいたのである。
まあ、京都の縁結びスポットといえば、一番目や二番目に名前が挙がってもおかしくない、有名な神社だからな。
日本人だけでなく、恐らく中国人や韓国人など、海外からの観光客も列を作っていた。
本来の調子でない体を抱えたわたしは、こんなご利益のない神様に並んでまでお参りなんてしたくない。
そこでお守りだけ先に返した。
多分、お守りやグッズが販売されている授与所の人に、渡したんじゃないかなー。
で、列に並ぶのがイヤなので、横からご本殿に向かって、形ばかりのお参りとお礼を伝える。
それから熱心に並んで列を作ってる人たちに向かって、聞こえるか聞こえないかの声で
「ここの神社、全くご利益がないから並んでもムダですよ~。
バーカ、バーカ。」と悪態をつく。
例えそれをセーブタさんが聞いていたとしても、かまうもんか。
本日で終わる男。
ハゲでデブでにぶちんで、気の利かない、話が噛み合わない、つまらん男なんて、ころんはもういらないアルよ。
おまえなんていらないアル!!
さて、これでお守りを返すという、本日最大のミッションはやり遂げた。
この京都嵐山に思い残すことは、何もありゃしまへんで。
解散!!
とばかりに、わたしたちデブカップルは、野宮神社を後にしたのです。
しばらく二人で歩いた後、何だか、道案内のカンバンが出ていたので、セーブタさんは熱心に見に行った。
おそらくセーブタさんが次の目的地に設定していた寺院までの、現在地からの距離が記載されていたのだと思う。
「徒歩15分とあるから無理ですね…。」
とセーブタさんは、残念そうに言った。
え!?
わたしが体調不良で歩くのがつらいと訴えているのに、徒歩5分以内の距離ならば、わたしをまだまだ連れまわすつもりだったとか?
どこまでも、なめ腐った男だのー。
こんな男にいつまでも付き合ってられやしまへんで、とばかりにわたしは
「駅ってどっち方向ですかねー。」
と淡々と帰る方向へうながす。
そして駅方向に向かっているところに、甘味処がポツンとあった。
そこで少し休憩していくことになった。
わたしも無理して野宮神社まで行ったものだから、さらに体調不良に拍車がかかり、少し休みたかった。
店内は空いており、一組か二組ぐらいしか、お客がいなかったと記憶している。
冷房がよくきいた涼しいお店に入り、冷えた水を口にする。
暑がりのわたしは、冷たいものが体を抜けていくだけで、生き返るよう。
そして、何か冷たいスィーツを二人とも注文したと記憶している。
ふー、
やっと落ち着いたわい、と思っていたところにセーブタさんに
「ころんさん。」
と、改めて名前を呼ばれ、真剣な眼差しを向けられた。
え?
なになに、なにがはじまるんだ、と思って、セーブタさんを見つめ返したら、彼は続けた。
「ころんさん!
僕はころんさんのことが好きです。
僕と結婚を前提にお付き合いしてください!!!」
「えぇええぇぇぇー!?」
とわたしは言うしかないわな。
ほんのさきほど、体調不良だったあたしゃ、あからさまにイラついた声で
「わたしもね、大人なんだから、倒れそうと思ったら休んだり、救急車呼んだりするでしょ!
自分の体の調子ぐらい、自分で分かるでしょ!
大人なんだから!!
ぶっ倒れたりなんてしません!!」
と怒りをぶつけた後なのに、まさかの、プロポーズですかぁあぁああぁ!?
これはこれは驚いた。
もしかして、セーブタはドМなのか?
そうなのか?
もうセーブタみたいにニブチンで、イライラする男は、今日限りやで!とさっきまで思っていたし、嫌われてもいいわとキツイ物言いも何度かした。
だからまさかこんな告白を受けるとは予想だにせず、とりあえずわたしは驚きを抱えたまま、
「え~!? ちょっと、早くないですか~?!」
と言うのが精いっぱい。
するとセーブタは続けた。
「僕はころんさんと初めてお話したとき、すごく楽しかったんです。
少し早いかとも思いましたが、ころんさんが別の男性に行ってしまわないように、気持ちを伝えることにしました。
ころんさんを好きな気持ちは、ずっと変わらないと確信できたので。」
と、たいへん男らしい告白で、本来、わたしのような売れ残り女なら、救いの神が現れたとばかりに、ここはひとつ、泣いて喜ぶべきでしょう。
しかし、セイブタさん。
アナタ、大丈夫ですかー?
わたしに騙されてませんかー??
いや、まごうことなき、わたしに騙されておるな。
フン、わたしは騙してなんかない。
勝手にそっちが勘違いして、浮かれて、舞い上がっておるだけだ。
きっとあまりにモテない人生を歩んできたため、わたしのような美女にちょっと愛想よくされたら、簡単に恋に落ちてしまうんだろうな。
やっすい男…。
しかも初めてお見合いしたとき、アンタは楽しかったかしれんけど、わたしはクソがつくほどつまらんかったぞ。
とにかく話が噛み合わないという感想しかない。
マジで断る5秒前やったわ。
セーブタさんときたら、ご理想が低いことで、うらやましいことね。
さらに、わたしが別の男性に行ってしまわないようにと、セーブタさんは危惧していたのだが、実はこのとき、ダースさんと両天秤状態でした。
知らぬとは、恐ろしいことね。
わたしは、ちょっとセーブタさんが心配になってきて
「大丈夫ですか?
わたし、だいぶ猫かぶってますよ?!」
と、セーブタさんの性急さをたしなめたものの、全く効果ナッシング。
「僕も猫をかぶってますから!
これからころんさんのことをもっと知りたいし、僕のことも知ってほしい。」
などと、浮かれポンチのこと、この上ない。
わたしのことなんて、知れば知るほど、性格がクソだって思い知らされるだけやで。
あ、アンタ、このブログ読んでも、わたしが好きだなんて言えるのかね。
試しにちょいと、読んでみるかね。
わたしはあんたのことなんて、特にこれ以上知りたいなんて、思ってませんがー、
とまあ、わたしときたら、真剣にわたしを好きだと言ってくれた殿方にしてこの態度。
これでは売れ残るのも無理はない。
しかし、これは売れ残り女から脱出する、千載一遇のチャンスだ。
ここで選択を間違えてはいけないよ、ころん!!
結婚だ!
喉から手がでるほど結婚がほしかったんだろう?
ほら、すぐそこだ。
結婚はもう、目の前にある。
続く