あまりに仕事ができないため、ヒトラー所長のパワーハラスメントにより退職に追い込まれたレイカさん。
彼女は、ハカナさんという40代後半ぐらいの営業女性に、
「次はあなたの番ですよ。」
と言い残して、誰にも見送られずに去っていった。
このハカナさん。
スラリと背が高く、いかにもキャリアウーマンという容姿。
一見やり手営業ウーマンのように見えた。
しかし実際は、とても心が純粋でもろく、職場でよく号泣していた。
ただ泣いているのではなく、号泣ですよ、号泣。
40代後半の女性が、毎日号泣しているって、異常な職場ですよね。
わたしはハカナさんがトイレでこっそり泣いているのも、ニ度ほど見つけたことがある。
すぐ泣く儚げな人なので、ハカナさんと名前をつけました。
ちなみにハカナさんだけでなく、モンスターさんを含める数少ない女性営業たちは、一度は職場で泣いたことがあるらしい。
モンスターさんが泣いているのは見たことはないが、他の女性が泣いているのもニ度ほど目撃した。
皆40歳越えているのに、職場でわんわん泣く。
いかにP企業の営業が過酷か分かっていただけるかと思います。
ハカナさんときたら、一度ヒックヒックと大きくしゃくりあげて泣いていたらしい。
その鳴き声に、レイカさんびっくりしてキョロキョロと振り返って見つめていたと聞いた。
ハカナさんはシンママで、二人ぐらいお子様がいた。
そのうち一人は保育園に預けており、必ず定時に帰って、おむかえに行かなければならないという事情を抱えていた。
しかし!
このコンプラ厳しい時代に、イクメン推奨の時代に、育児休暇を必ずとれという時代に、さ・す・が・パワーハラスメント、略してP企業。
「やることやってないのに帰るな!」と一千万店長の叱咤を受け、ハカナさんは帰ることが許されない。
よって、泣きながら残業するというハメになる。
ハカナさんのお子様の預け先保育園も、時間通りにむかえにこないハカナさんのためだけに、残業を強いられていたらしいよ。
子供を保育園に時間通りにむかえに行くことさえ許さない、パワーハラスメント企業。
東京オリンピックのメインスポンサー。
人権問題に厳しい現代にあって、日本の恥だわな。
ハカナさんの仕事ぶりだが、評価が分かれていて、どんくさくて忘れっぽく、仕事ができないという人もいた。
一方で業務量が多すぎるだけで、適正な業務量なら、きちんとこなす頭のいい女性だという声もあった。
わたしはさほど仕事で関わることがなかったので、いつも泣いているイメージだったから、どんくさい女性のように思えました。
前所長に
「お前は売上悪いから、一日30件取引先まわってこい!」
って怒鳴られて
「一日30件もまわれへん~。」
と泣いていた。
いや、まわれるだろ、30件ぐらい。
「恐れ入ります、P企業です。」
「今、けっこうです、」
「また何かあればよろしくお願いいたします。」
この一分にも満たない営業で、1件に数えてもいいんやで。
まわれるだろ、30件ぐらい。
泣いている間に一件でもまわれるよね。
ハカナさんは、弱くて言いなりになりそうな女性なのに、実は頑固な一面もあって困っていると、国立大卒の才媛さんが言ってた。
一度、会議でヒトラー所長にめちゃくちゃ怒られていたのを目撃したことがある。
ハカナさんがお客様に商品を売る。
その後、その商品の材料を、材料課に引き継ぐ。
何と!ハカナさんは材料を引き継いだ後に、お客様と再度商談をして、材料を勝手に変更した。
それは別にいいんだけど、その変更内容を、材料課に伝えるのを忘れてたみたい。
すると材料課が、商品を納入したときに、お客様が
「え?ハカナさんと決めたデザインと違いますけど…。」
となって、その日の納入中止。
割と大きなトラブルだわな。
会議でヒトラー所長にそのトラブルの説明を、させられたハカナさん。
「ワタシの確認ミスだったので、理由書を書きます…。」と説明したら、ヒトラー所長が激怒した。
「嘘つくな!!
確認ミス違うやろ!!
懲戒免職ものの、ルール違反をしたやろ!!
理由書ではすまない!
始末書や!!」
ってハカナさんは、所長に怒鳴られていた。
わたしはなぜこんなにハカナさんが怒られているのか分からなくて、後で同じ部署の男性に聞いた。
この男性、このときころんを助けてくれた人ね。
ロスジェネ世代 下いびりの上へつらい 驚くほど性悪人間が集まるパワハラオフィス P企業4
鍵を探してくれたってことで、キイさんという名前にします。
次回たくさん登場するから、覚えておいてね。
そのキイさんの説明によると、営業がデザインを決めたら、後は材料課が引き継ぐ。
ここからは材料課の仕事なので、営業がちょっかい出してはいけないんだと。
だからお客様が万が一デザインを変えたいと言い出しても、後は営業ではなく、材料課が商談することになる。
お客様がどうしても営業と相談したいというなら、材料課を同席させる。
あるいは、材料課に変更を必ず知らせる。
そういう業務の絶対ルールを無視したってことで、所長は激怒したのです。
少なくとも、商品デザインを変更したなら、それを材料課に伝えないと、変更前の商品が届いてトラブルになるのは、火を見るより明らかだわな。
そのぐらいはころんでも分かる。
ヒトラー所長にうそつきよばわりされて、めちゃくちゃ怒られていたハカナさんは
「ヒトラー所長のおっしゃる通りです。」
と素直に謝っていたかのように見えた。
その後、お子様のおむかえの時間なので、ハカナさんは途中で会議室を抜ける。
わたしは、ハカナさん、あんだけ怒られたらきっと、オフィスで泣いているだろうなと思ったら、案の定だった。
事務員の女の子に聞いたんだけど、会議室からオフィスに帰ってくるなりものすごく怖い顔をしていたらしい。
そして、
「ワタシはお客様と相談して一緒にデザインを決めたのに、嘘つきよばわりされた。
もう会社辞める~。」
と大号泣していたらしい。
確かに嘘つきよばわりした、ヒトラー所長は言い過ぎのパワハラだと思う。
だけど今回のトラブル、絶対ハカナさんが悪いよね。
翌日、ハカナさんは泣きながら一日中、始末書を書かされていた。
ヒトラー所長はハカナさんにこんこんと、今回しでかしたことの説明をして、始末書の指導をしていた。
それは横で聞いている一介の派遣のころんでも、分かるような明確な説明でした。
なのにハカナさんは、所長が出かけた後、泣きながら
「ワタシはもう、所長が何を言ってるのか分からへん。
でも所長の言う通りにしないと、終わらないから、所長の言う通りにするねん…。」
と始末書を書いていた。
わたしは思わず横から
「わたしが代わりに始末書書いてあげましょうか。」
って言いそうになったわ。
だって、ころんでもハカナさんの何が悪かったか、理解してるんやで?
このプロのライターころん様が、始末書ぐらい、ちょちょいのちょいと書いてしんぜよう。
結局、ハカナさん、丸一日かけて、始末書を書いたみたい。
ただでさえ、トロくてスケジュール管理ができてないって怒られてるのに、丸一日、始末書で無駄にしたね。
このような出来事から、わたしにとっては、ハカナさんは、仕事のできない人という印象でした。
そしてこの事件により、ハカナさんは退職を決意したそうです。
ところがヒトラー所長は、ハカナさんの退職を引きとめたのです。
つまり所長はハカナさんのことを評価していたか、気に入っていたということになりますね。
この後に気がついたのだが、恐らくハカナさんは、ヒトラー所長の好みのタイプだったのだと思う。
それは、女性としてと、部下としての両方ね。
メソメソとよく泣くハカナさんは、一見儚げで従順そう。
このヒトラーは、従順なタイプが好きなんだと思う。
もう一人、ヒトラーは、顔は男前なんだけど、飲みこみが悪く、覚えの悪い男性営業マンのことも引き立てていた。
飲みこみが悪く覚えが悪いってことは、バカってこと。
バカでも、見た目は精悍で昭和のイケメンって容姿。
体育会系なのか、礼儀正しい人だった。
この部下をヒトラー所長は
「バカか、お前。」とののしりながらも、気に入って、きめ細かく面倒を見ていた。
多分、バカでも素直にヒトラー所長の言うことを聞くから、使いやすいんだろうね。
だってヒトラーが必要としている部下は、自分で考えて動く人間ではなく、所長の言う通りに動くロボットだから。
ヘンに知性があるより、頭空っぽのバカの方が、ヒトラーの教えが入りやすいでしょ。
ハカナさんは一見従順そうで、いかにも男性の言いなりになりそうなタイプ。
が、それは見た目だけで実際は、頑固で全然従順じゃなかったんだよね。
もう一人、細身で美人タイプの派遣社員のことを、ヒトラー所長は気に入っていたみたい。
嫌いな人間を、皆の前で見せしめのように露骨な叱咤をして退職に追い込むヒトラー所長。
嫌いな人に露骨な態度ってことは、好きな人にも露骨な態度ってこと。
その美人の派遣さんに、営業的なことをさせたいって、また大きな声でベラベラ喋っていた。
つまりその派遣さんを気に入ってるってことだろうね。
さらにその後、パートとして採用した女性も、細身で大人しそうなスラリとした女性だった。
そこでころんはいやがおうでも、このヒトラー所長の好みのタイプを知ることとなる。
別に全然知りたくないけどな。
興味もないけどな。
ヒトラー所長の好みの女性、細身で大人しくて従順なタイプ。
あかんやん!
ころん、あかんやん。
ブタでうるさくて、絶対服従しないタイプ。
ころん、ヒトラー所長に嫌われるタイプやん!
ヒトラーに好かれたところで、抹殺を手伝わされるかもしれないから、気に入られたくもないけどな。
しかしヒトラーに嫌われると、抹殺されるという恐怖があるわな。
もう間もなく、ハカナさんもころんも、ヒトラーに抹殺されようとしていた。
続く