刑事コロンボ第七作「もう一つの鍵/ LADY IN WAITING」は、今までと少し毛色の変わった作品です。
刑事コロンボで殺人犯を演じるゲストスターは、上流階級で社会的地位が高く、頭脳明晰という設定がほとんどでした。
しかし今回のゲストスターであるスーザン・クラークが演じるベス・チャドウィックは、確かに上流階級のお嬢様ではあるようです。
しかし、箱入りお嬢様だからか、無職だし、血を分けた兄を殺してしまうなど、今までの犯人のような高い知能を持つようには見えないんですね。
「もう一つの鍵」という邦題は、まさに殺人を証明する重要なキーポイントをあらわすよいタイトルだと思います。
一方で原題の「LADY IN WAITING」は、「待ち構えていた女性」とでも訳せるのでしょうか。
「LADY」は、女性を敬う表現ですので、淑女や貴婦人という意味ですね。
しかしここではレディを、お嬢様、と訳したいと思います。
いえ、この物語の中では、お嬢様よりも「お嬢ちゃま」の方がしっくりきます。
では、「待ち構えていたお嬢ちゃま」のお嬢ちゃまぶりを、とくとご覧あれ。
#7 もう一つの鍵/ LADY IN WAITING (1971年)
刑事コロンボ:ピーター・フォーク(小池朝雄)
殺人犯: 広告代理店名目役員 ベス・チャドウィック/スーザン・クラーク(小沢紗季子)
被害者: 殺人犯の兄広告代理店社長 ブライス・チャドウィック/リチャード・アンダーソン(小林恭治)
殺人犯の恋人:ピーター・ハミルトン/レスリー・ニールセン(柴田昌宏)
殺人犯の母:チャドウィック夫人/ジェシー・ロイス・ランディス(鈴木光枝)
殺害の動機:恋人との交際を邪魔されたため
- 演出:ノーマン・ロイド
脚本:スティーブン・ボッコ殺害の動機と方法
兄殺害の動機
物語は草木も寝静まる深夜のことでしょうか。今回のゲストスター、スーザン・クラーク演じるベス・チャドウィックが、兄のブライスの寝室に忍び込み、一つの鍵を盗み出すことから始まります。
場面が変わり、夜は明けます。
広いお屋敷のお庭の木陰で、妹ベスと兄ブライスは優雅にモーニングですよ。
黒人のチャールズという執事までいます。
このシーンで、この兄妹が上流階級の裕福な家柄だとういうことが分かりますね。
刑事コロンボの殺人犯はたいてい上流階級のお金持ちなので、彼らの住む豪奢なお屋敷やお庭もみどころです。
ベスは美人ですが、白いシャツを身にまとい、このシーンではどちらかというと地味で控えめな印象。
彼女は、兄ブライスが社長を務める広告会社の幹部で法律家ピーター・ハミルトンと付き合っています。
しかしその交際をブライスに強く反対されています。
そしてとうとうブライスは最終手段として、交際を止めないと解雇するという手紙を、ピーターに送り付けたのです。
ブライスが強く二人の交際に反対する理由は、ピーターは優秀ではあるが、その分野心が大きく、社長の妹であるベスを利用しようとしているというものでした。
そしてベスも最終手段、つまり兄を殺すことを決心するのです。
ベスの兄殺害計画
ベスが兄ブライスを殺害する日は、執事のチャールズが休暇で不在にする、今夜です。ベスはブライスが帰宅する前に、玄関の照明がつかないように壊れたものと取り替えます。
これはブライスが深夜帰宅したときに、照明がつかず、暗い中玄関の扉を鍵で開けることができなかったという設定を作るためです。
実際は、ベスがブライスの自宅の鍵を盗んだため、兄は玄関から入ることができなくなるわけです。
玄関から入ることができなかったブライスは、庭を通って、ベスの部屋の窓辺へ行きます。
そしてベスの部屋から、自宅に入れてもらうように彼女に頼むのです。
ベスは警報装置を切ったから、自分で窓を開けて入るように兄に伝えます。
しかしあえて警報装置は切らずに、ブライスが窓を開けたとたん鳴るようにして、そのままベスは兄を用意していた銃で撃ち殺すのです。
ベスはブライスが入った窓を外から割っておき、あらかじめ盗んだ鍵を戻して、玄関に投げ捨てます。
これにより、鍵を落としたブライスが玄関から入れず、ベスの部屋の窓を割って入ったために強盗と間違えて、兄を撃ったという筋書きが完成しました。
不幸な事故に見せかけたベスの、兄殺害計画です。
さあ、この計画を遂行するために、ベスは兄の帰宅を待ち構えています。
これが原題の「LADY IN WAITING」の意味、すなわち「待ち構えていたお嬢ちゃま」ですね。
お嬢ちゃまのくせにお行儀が悪く、ベッドの上でお菓子を食べながら、いまかいまかと兄の帰りを待ち構えています。
ベスの殺害計画の誤算
ベスの誤算1-もう一つの鍵
いよいよベスお嬢ちゃまが待ち構えていた兄ブライスが、帰宅しました。
玄関の鍵が見つからなかったブライスは、チャイムを鳴らしますが、誰も出ることはありません。
銃を握りしめていまかいまかとその時を待ち構えるお嬢ちゃま。
しかしブライスは、ちゃんと玄関から入ってベスの部屋までやってきたのです。
玄関に飾られた植木鉢に、スペアキーを隠しておいたので、それで入ることができました。
これが邦題の「もう一つの鍵」の意味ですね。
計画は失敗。
ここで止めておけばよかったのに、何とベスお嬢ちゃまは、そのまま握りしめていた銃で兄を殺します。
3発発砲した後、警報ベルを鳴らし、兄の遺体を窓際まで引きずって運びます。
予定通り窓を割って、盗んだ鍵は戻して玄関に捨て、スペアキーは自分で持っておきます。
しかしベスにもう一つの誤算が…。
ベスの誤算2-恋人ピーターの来訪
ベスの恋人ピーターは出張から帰宅し、ブライスからの解雇予告の手紙を見つけます。
そしてブライスと直談判をするために、深夜にベスのお屋敷を訪れるのです。
門を開けることができず、帰ろうとしたピーター。
しかしベスの発砲した銃音と警報音を聞きつけて、門をよじのぼって乗り越え駆けつけるのです。
ベスにとっては誤算でしたが、ピーターを招き入れて、強盗と間違えて兄を撃ったと説明するお嬢ちゃま。
お嬢ちゃまの兄殺害計画は、何とか成功したように思えます。
物語約21分、コロンボ登場
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コロンボの疑惑-1 新聞
ベス邸からの通報を受けて、警察が捜査にやってきます。物語開始約21分で、コロンボが登場です。
何やら熱心に、チャドウィック邸の玄関ロビーに置かれた新聞を読んでいます。
ベスは警察に、今日は気分が悪くて家から出ずに睡眠薬を飲んで寝てしまい、兄が帰宅したことにに気がつかなかったと言います。
そして警報ベルで目を覚まし、意識がもうろうとする中で、兄を撃ってしまったと証言します。
そこでコロンボは、
コロンボあのちょっと失礼。
うちから一歩も出なかったんですか?
間違いないね。
としつこくお嬢ちゃまに確認します。
さらにコロンボは、ピーターに新聞を見せて
コロンボこいつあんたのですか?
と確認します。
この新聞はピーターのものではなかった上に、一日中家にいたベスが購入したものでもないわけです。
すると自動的に兄ブライスの持ち帰ったものになります。
ならばベスの部屋の窓から入ってそのまま撃たれて死んだブライスの新聞が、どうして玄関におきっぱになっていたのでしょうね。
事故で処理されたこの事件、コロンボだけは殺人事件ではないかとにらんでいます。
ですからベス邸を去るときに、執事が休暇を取って、ベスとブライスが二人きりであったことを聞いて
コロンボ偶然でしょうかね。
と捨てゼリフを残していくのです。
ベスはコロンボに疑われていることに気がつき、険しい表情を見せます。
コロンボの捜査開始
お約束シーン 警察だと思われないコロンボ
ベス邸で早速、玄関の切れた電球を調べているコロンボ。
離れて暮らしていたベスの母、チャドウィック夫人がタクシーでやってきます。
コロンボを使用人だと思い込んで、タクシー代を払って荷物を運ぶように命じます。
言われた通りにするコロンボ。
お人好しですねぇ。
チャドウィック夫人に、コロンボは警察だと名乗り警察手帳を見せます。
コロンボがまさか警察だと思わなかったチャドウィック夫人は、
「すみませんけどもっとはっきり(警察手帳)を見せていただけません?」
と言ってから、
「そう 警察にもあなたみたいな方が…。」
と困惑気味。
毎回コロンボが警察だと思われないって、お約束のシーンなんでしょうか。
コロンボの疑惑-2 母によるベスの評価
チャドウィック夫人は、娘であるベスと再会した途端、過失とはいえ兄を撃ち殺したベスに平手打ちをくらわせます。
「いつか間違いを起こすんじゃないかと心配していたわ。
あなたときたら女のくせにやることが乱暴だし考えが足りないんだから。」
と娘を責める母の言葉に、エキセントリックなお嬢ちゃまの性格がうかがえますね。
これを見逃すコロンボではありません。
このシーンでもベスは、髪を一つにまとめて黒っぽい洋服を着て、きれいなんですがシンプルで控えめな印象です。
うちのカミさん-1 大家族のコロンボ
- 母娘のバトルを眺めるコロンボに、ベスは、
- 「刑事さん 申し訳ありません。びっくりなさったでしょう。」
- と謝ります。
- コロンボは
コロンボ
いやいやご心配なく。
アタシは家族のごってりいるうちで育ちましてね。
いつも蜂の巣つついたような騒ぎ。
と、家族の話で和ませます。
定番セリフ「うちのカミさん」ではありませんが、コロンボは犯人の懐に入るために、妻や家族の話をするというセオリーなので、数えることにします。
コロンボの疑惑-3 兄妹の仲
チャドウィック夫人は、亡くなったブライスはとても優秀で、人を見る目があり、ベスの父親代わりだったと悲しみに暮れます。そしてベスは男性を見る目がなく、現恋人のピーター・ハミルトンも財産目当てだと嘆くのです。
40歳を越えたブライスについてコロンボは
コロンボまだ独り身でしたね?
何か訳でも?
と、チャドウィック夫人に問います。
確かに優秀でお金持ちでいい年をしたブライスが独身で、妹の歴代恋人にいちいち口を出して別れさせてきたというのは、シスコンっぽくてちょっと異常ですね。
自分が結婚してみせてから、妹の恋愛に口出せやって、婚活のプロとしてわたしは思います。
チャドウィック夫人は、ブライスは仕事に忙殺されたため独身だったと息子をかばいますが、妹の歴代彼氏をチェックする暇はあるのですね。
夫人はこれから一族の会社がどうなるのだろうと不安に暮れます。
するとベスが自分も会社の役員だから、兄に代わって引き継ぐと申し出るのです。
ブライスは頭ごなしに妹が無能だと決めつけており、ベスに仕事のチャンスを与えませんでした。
ここでお嬢ちゃまにとっては、兄は恋愛と仕事、両方の面で、邪魔な存在だったということが分かりますね。
もう一つだけ-1 新聞
コロンボは昨夜疑惑を感じた新聞の件について、ベスに問います。コロンボ刑事なんてのは因果な商売でしてね。
つまらんことが頭にこびりついて離れないんですな。
この言い回しもコロンボはよく使いますね。
つまらないことが気になるというのは、コロンボの性質なんでしょうね。
わたしもそういう性格ですから分かります。
つまらないことをいつまでもいつまでもネチネチネチネチ覚えてるんです。
ころんですから過去を遡って、昨日の出来事のようにブログを書くことができるんですがね。
コロンボは、玄関ロビーで見つけた夕刊を誰が持ち込んだか分からないとベスに問います。
配達だと説明するベスに、コロンボは配達は朝刊だけであり、最新版の夕刊では説明がつかないと疑問を口にします。
兄が持ち込んだのかもというベスに、玄関を通らず、妹の寝室から入って撃たれて倒れたと説明します。
コロンボ新聞紙に足が生えてロビーまで歩いていったんですかね?
と、とぼけたふりをして嫌味ったらしいコロンボ。
そこでチャドウィック夫人も、
「刑事さん あなた この子 疑ってらっしゃるの?」
と不満を口にします。
ベスは、よく覚えていないけど、新聞を拾ってロビーまで持っていったのかもしれないと答えます。
するとコロンボから
コロンボそうも考えてみたんだけど一つ疑問が残るんですよ。
と、定番セリフの「一つ」が出ました。
ブライスのかばんはそのまま戸のそばにあったのに、新聞だけロビーへ持って行くのは不自然であるとコロンボは言います。
ベスは、目についたからだと説明しますが
コロンボ普通の人ならその逆でどっちか大事な方を拾うはずだ。
とコロンボは譲りません。
チャドウィック夫人が、人間はショックを受けると無意識におかしなことをするものだと、娘をかばいます。
息子を殺された上に、その殺人犯が娘なんて、普通の人なら耐えらないですものね。
そんな夫人にコロンボは、
コロンボどうか気にしないでください。
つまらん事考えるのはアタシの病気なんですから。
と言い訳して帰ることにしたようです。
立て替えたチャドウィック夫人のタクシー代を、請求してコロンボは去ってゆきます。
コロンボが娘を疑っていることに気がつき、険しい表情をしたチャドウィック夫人。
ちなみにこのシーンで、ベスはボリボリクッキーを食べています。
兄殺害を待ち構えていたときもお菓子をポリポリ食べていました。
緊張すると、何か甘いものを食べずにいられないんでしょうかねぇ、お嬢ちゃまは。
お嬢ちゃまの無罪決定
ロサンゼルス郡裁判所で、ブライス・チャドウィック死亡事件の査問会が行われました。
ベスはベージュのシンプルなワンピースをまとっています。
そして結果を待つ間、緊張しているのか、お嬢ちゃまは爪をぼりぼり噛んでいます。
法廷でお菓子食べられないからね。
爪を噛んで我慢するしかありません。
結果は過失によるものとして、ベスは無罪になりました。
大喜びのお嬢ちゃまは、陪審員を晩餐に招待しようかしら、なんて言ってます。
恋人ピーターは、「評決の後でも贈賄罪になるんだよ。」と法律家らしい発言でベスをたしなめます。
事件がひと段落ついたことにピーターが、「すべて元どおり。」と安堵しているとベスは
「いいえ。元通りなんて意味がないわ。進歩とは古いパターンを打ち壊す事でしょ?私も生まれ変わらなくちゃ。」
とまあ、兄を殺しておいてこの清々しさはどうでしょうか。
早速ピーターに会社の役員会議の手配を、しっかり頼んでいます。
食事に誘うピーターを断って、ベスはチャドウィック夫人とどこかに出かけてしまいました。
これをじっと見ていたコロンボは、ふられたピーターに声をかけ、食事に誘います。
コロンボを覚えていたピーターは記憶力はいい方だと語ります。
コロンボそりゃ羨ましいな。
アタシなんか今聞いたことも右から左でしてね。
コロンボの疑惑4-殺害現場にピーターが居合わせた理由
コロンボのおごりでピーターが訪れたのは、ドライブスルーのように車から食事を注文して、そのまま車内で飲食する形式のお店です。
かつてわたしはお見合いした男性に、クリスマスデートでドトールに連れていかれ激怒しましたが、それよりひどい選択ですね。
ハンバーガーと飲み物を運んできたウェイトレスが
「食事が済んだらおぼんを取りにくるので声をかけてください。そのまま入ってしまうお客さんがよくいるんですよ。」
と言うと、コロンボは
はい分かりました。忘れません。
と答えますが、絶対おぼん返すの忘れるフラグが立っていますね。
コロンボからハンバーガーを受け取ったピーターは、中身を見て食べずに車内に置いてしまいました。
ベスと結婚するつもりだったんでしょうと、ずけずけと聞くコロンボにピーターは
「こりゃまた単刀直入だな。」と間を取ります。
野暮は刑事の看板でして。
と、いつものごとくコロンボは失礼発言を上手にカバーします。
したたかな男です。
コロンボは、ブライスが亡くなった日にピーターが居合わせたことに疑問を投じます。
ピーターは、妹ベスと別れなければ「クビを覚悟してもらおう」というブライス社長、おはこのセリフが記載された手紙を受け取ったため、カッとなって押しかけたと説明します。
しかしすでにブライスは亡くなりベストの結婚に反対できなくたっていたためコロンボは
偶然の一致ですかね?
と、お得意のほのめかしです。
これを聞いたピーターは
「そいつは誘導尋問だな。
私とベスが社長を殺したと思ってるんですね?」
と疑いを指摘します。
陪審の答えは過失だとはっきり出ているとごまかすコロンボに、ピーターは
「そりゃ分かってる。私はあなたの考えを聞いているんだ。どうしてあっちこっちつついて回るんです。」
と再び問います。
ああ…
これはその~
一種の病気でね。
つまり個人的趣味っていうかほつれた糸をすっきりさせないとどうも寝覚めが悪いもんで。
と、コロンボは話を終えようとしました。
するとピーターが、自分は財産目当てに結婚する男のように思えるかとコロンボに尋ねます。
そんなうわさも聞いたけど…。
とコロンボが答えると
「そりゃ誤解だ!ベスを愛してる。財産も地位も問題じゃない。
社長と対決して会社を辞めるつもりだった。」
と弁明するのです。
これが本当なら、ピーターはなかなか男気がありますね。
しかしピーターが会社を辞める必要はなくなり、ベスは支配的な兄から解放されました。
天下晴れてベスが自由になり、「今までのパターンを破らなきゃ。」
と言ったときに、コロンボは気がついたのです。
兄が死んだことでベスは一番得をしたのだと。
これでベスの兄殺害の動機を、コロンボはつかんだことになります。
食事を終えて車を走らせたコロンボにウェイトレスが、「おぼんつけたままですよー。」と呼び止めます。
やっぱりコロンボはおぼんを返すのを忘れるところでしたね。
明日に続きます。
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