作品情報
刑事コロンボ:ピーター・フォーク(小池朝雄)
殺人犯:心理学者&意識研究所所長バート・ケプル/ロバート・カルプ(梅野泰靖)
被害者:ノリス産業社長 ヴィクター・ノリス/ロバート・ミドルトン(小瀬格)
被害者の妻:ノリス夫人/ルイーズ・ラサム(幸田弘子)
映写技師:ロジャー・ホワイト/チャック・マッキャン(三宅康夫)
ヘイワードの愛人:リンダ・ジョンソン/タィシャ・ステアリング(津田京子)
演出:リチャード・クワイン
脚本:スティーブン・J・キャネル
殺害の動機:保身のための口封じ
殺害の準備と動機とバックグランド
ノリス殺害の準備
映し出された豪華なビルは、心理学者バート・ケプルが所長を務める意識研究所(ケプル研究所)です。
ケプル所長は執務室で現在殺人の準備中です。
1.銃を細工
2.自分の声の吹き込まれた録音テープの確認
3.宣伝用の映画フィルムに、氷づけにして冷やされたコーラのカットをはさむ。
4.東ロビーを映しているモニターを止める
そこへいつもより早く映写技師のロジャー・ホワイトがやってきます。
くまちゃんみたいな、ほがらかで良いキャラです。
5.ノリス夫人に電話
映写室を後にしたケプルは、執務室で声色を使ってノリス夫人に電話をかけます。
ちょっとバカっぽい男のしゃべり方をしているのが何とも役者ですね。
電話の内容は、自分のガールフレンドであるタニア・ベーカーが、ノリス夫人の夫ヴィクターと浮気しているというものです。
タニアを水着のCMに雇ったことがきっかけで、私立探偵に撮影された浮気の証拠写真もあるというのです。
タニアとヴィクター・ノリスの浮気現場に案内するため、ケプルはマグノリアの角にノリス夫人を呼び出します。
しかしヴィクター・ノリスはタニアに会ってはおらず、ケプル研究所を訪れたのでした。
6.ノリスにキャビアをふるまう
ケプルはノリスに、イラン王室ご用達のキャビアをふるまいます。
ノリスはキャビアが大好物なのか、バクバク食べてますね。
ノリス殺害の動機
どうやらノリスがタニア・ベーカーと不倫したことと証拠の写真があるのは事実のようです。
ケプル所長はタニアを使ったハニートラップで、依頼人を罠にはめてお金儲けをしているのでした。
ですがノリスは自分のスキャンダルが明るみに出る覚悟を決めて、ケプル所長を告発するつもりです。
ケプルの「まるで殉教者きどりだ。殉教者は死なねばならんよ。」というセリフが、これから起ることを予言しています。
ノリス殺害の実行
1.銃の準備
ケプルは執務室にある銃を一つ、自分のふところへ隠します。
2.ナレーションの録音テープを流す
ケプルは広い試写室へゲストを案内し、上映するフィルムにナレーションが入っていないことを説明します。
代わりに自らがナレーションをして、ゲストの意見を聞いてから改めてプロに吹き込んでもらうことを伝えます。
「この作品は私の会心作です。
幾つかの強力なセールスを刺激する要素があります。」
と語るケプルの自信は、完全犯罪の計画をひらめいた自らへの賞賛でしょうか。
そして自分がナレーションを務めているフリをしながら、用意していたナレーション入りの録音テープを流すのです。
3.東側ロビー水飲み場のモニターを確認
こっそり映写室を抜け出したケプルは、東ロビーにつながる部屋で、東ロビー水飲み場を映し出したモニターを見つめ続けます。
映写室に残されたゲストたちはとても暑そう。
その暑さに追い打ちをかけるように、ケプルのフィルムは乾いた砂漠の風景や灼熱の太陽の映像を映し出します。
暑さとのどの渇きに耐えかねたノリスは、映写室を出て東ロビーにある水飲み場へと向かいます。
4.ノリス殺害
ノリスが東ロビーに出たのをモニターで確認したケプルもまた、水飲み場に向かいます。
ケプルは用意した銃を放ち、見事一発でノリスの心臓を撃ちぬきました。
そのまま執務室に向かって、銃を元の位置へ戻して、銃への仕掛けは照明の中に隠します。
何事もなかったかのように、映写室へもどり、テープレコーダーから流れるナレーションの続きを語るのです。
この間の時間は、ほんの2~3分!
練りに練られたスマートな殺人でした。
5.エアコンの不調
映画の上映が終わった後、ケプルはノリスがいないことをゲストたちに尋ねます。
蒸し暑いから出ていったと語るゲストに、エアコンの調子が悪くて迷惑をかけていると詫びるケプル。
暑くて喉が渇くように、あえてエアコンをつけなかったんですね。
本当に用意周到ですね。
6.録音テープの消去
ケプルは、自らのナレーションが録音されたテープをこっそり巻き戻します。
映写室を出たゲストたちは、殺害され倒れたノリスの遺体を見つけて騒ぎになっています。
駆けつけたケプルは、巻き戻したテープを遺体のそばのテーブルに置いて、自らのナレーションを消去するため、録音を開始するのでした。
物語開始13分 刑事コロンボ登場
被害者と同化するコロンボ
物語開始13分、殺人が起こったので刑事コロンボの登場です。
被害者ノリスは小さな口径の弾丸で、心臓を打ち抜かれて一発で即死。
ビルの表玄関、裏の通用口と二つの入り口から犯人の侵入は可能。
という説明を聞きながら、コロンボはケプルがゲストにふるまった軽食のあまりものを食べています。
あ~夕飯食い損なって腹へってるんだ。
というコロンボに、ある刑事がノリスの食べていたキャビアの残りを勧めます。
舶来物のキャビアは1瓶80ドル!
1973年は1ドル280円。
つまり1瓶22,400円のキャビアですが、現在より物価が高い時代でしたので、もっと高級品になるかと思われます。
キャビアをうまいと言ってぱくつくコロンボですが、この金額を聞いて
逃げようや。逮捕されちまうぞ。
と、おどけています。
さあ、殺害されたノリスと同じキャビアを食べたコロンボは、被害者と同化したわけです。
このコロンボの食い意地が、意外なところで殺人のトリックにせまることになるのです。
コロンボの疑惑-1 ノリスが試写室を出たタイミング
コロンボは部下の刑事に、ノリスが映写室を出たタイミングで殺害されたと説明を受けています。
映画見てる人間が途中でロビーに出てくるのをどうして犯人は前もって知ってたんだろうな。
というのが、コロンボの最初の疑惑ですね。
コロンボの疑惑-2 ロビーに残されたケプルの録音機
続いてコロンボは、ロビーに残されたケプルの録音機に関心を示します。
コロンボは録音の持ち主ケプルを探し出して、「ケプルさん?」と声をかけます。
「ドクターケプルだが。」と答えるケプルは、高い自尊心を感じさせます。
ケプルは、いつも試写の後は録音機を使って、ゲストの感想を録音するとコロンボに説明します。
もう一つだけ…1 映画の内容
コロンボに録音機の説明をして立ち去ろうとするケプルを、
もう一つだけ…。
と、定番セリフで呼び止めます。
コロンボに呼び止められて少々イラつくケプルに、コロンボは制作している映画の内容について質問します。
目聡いコロンボのことですから、映画の内容にノリスが出ていきたくなる何かが映されていたと考えたのかもしれません。
ケプルは、本業であるあらゆる分野の意識調査の研究に基づいて、ノリスのために販売促進用のフィルムを制作したとコロンボに説明します。
そしてノリスとは仕事上の付き合いであったと補足します。
これを聞いてひとまず納得したコロンボ。
エンジンがかかってきたのか、現場をウロウロし、本格的な捜査に入ります。
コロンボの疑惑-3 止まっていたロビーのカメラ
コロンボは映写室へ行って、映写技師のロジャー・ホワイトに聞き込みをします。
ロジャーは、ケプル先生が全て最新式の機械を用意して、映写機やスライド、編集用の器具を使いこなすことを説明します。
コロンボはロビーをモニターする有線テレビの存在に目をつけます。
試写中の観客の反応を見るためにあると説明するロジャーに
あんたが有線テレビ見ててくれりゃ犯人見られたのに。
つけてなかったんでしょ。
とコロンボは指摘します。
有線テレビをつけてなかったと答えるロジャーに
「そううまくはいかないやね。」とぼやくコロンボは、
犯人は有線テレビを切ることができた内部の者だとすでに気がついていますね。
コロンボの疑惑-4 喉が渇く
続いてコロンボが水を飲ませてくれるように頼むと、優しいロジャーはアイスティーを入れてくれます。
ロジャーのお言葉に甘えて、2杯もアイスティーの飲むコロンボは、不思議にのどが渇いているようです。
そういえば殺される直前のノリスも、とてものどが渇いている様子でしたね。
うちのカミさん-1 不動産屋
コロンボはロジャー・ホワイトの不動産の本を見つけて語り出します。
アタシのおじきがサン・ディーマスで不動産屋を始めて大当たりしてね。
コロンボは家族や身内の話をよくするということで、このセリフを「うちのカミさん」として数えます。
スクールバスの運転手をしていたおじが、大儲けして今やプールが二つもある本宅に住んでいるのですって。
ロジャーも不動産で当てることをねらって勉強しているとのことです。
コロンボの疑惑-5 フィルムの置き場
コロンボは上映されたフィルムを見せてほしいとロジャーに尋ねます。
ロジャーは、ケプルの指示ですでに倉庫に返してしまって見せられないと答えます。
ロジャーによると、フィルムはたいていは映写室のテーブルにあるのですが、場合によっては依頼主に渡したり、編集したり、倉庫に返したりするそうです。
コロンボの疑惑-6 落ちた小銭
コロンボは映写室に小銭が落ちているのを見つけます。
ロジャーは、映写技師は小銭を上映中のフィルムの終わりの方へ突っ込んでおくと説明します。
すると小銭が落ちる音がフィルムの終わりを告げ、ロールの取り換え時間が分かるのだとか。
鑑識が終わったのでコロンボは、ロジャーにお礼を告げて立ち去ります。
コロンボの捜査により、ロジャーも何かに気がついたようで、東ロビーを写す有線テレビを見つめています。
コロンボの疑惑-7 執務室の銃
再びケプルを訪ねたコロンボは、執務室にたくさんの銃が飾ってあるのを見つけます。
ケプルは使えるので検査しても良いと説明し、コロンボは念のため弾道検査にかけると伝えます。
コロンボの疑惑-8 映写中の観客の動き
コロンボはケプル博士に、フィルムの上映中に席を立った人物がいなかったかを訪ねます。
ヴィク・ノリスが席を立ったのは確かだと答えるケプルですが、目撃したわけではなさそうです。
さらにノリス以外に席を立った人はいないと言うケプルですが、これも見えていたわけではないのです。
見えてもいないのに誰が席を立ったのか分かるケプルに、不信感丸出しのコロンボ。
ケプルは自分の思い込みを認めた上で、ノリス氏の部下である試写室にいた人たちが、大事な映画の上映中に席を立つことは考えにくいと説明しました。
コロンボの疑惑-9 殺害の動機がある人物
コロンボはいよいよ核心にせまり、ノリスを殺す動機のある人物に心当たりがないかとケプル博士に尋ねます。
ここでわざとらしく間をとるケプルに
先生何か隠していらっしゃるようですなぁ。
と突っ込むコロンボは、おそらくケプルの思惑通り!
ノリスは、ケプルが雇ったタニア・ベーカーと愛人関係にあったこと。
既婚の人物が殺された殺人事件の75%は、結婚相手が犯人であること。
をケプルはコロンボに伝え、犯人がノリス夫人であることをほのめかします。
コロンボの疑惑-10 ケプルの冷静さ
コロンボは殺人事件後、ケプルが映写技師ロジャーにすぐにフィルムを倉庫に片づけるように指示したことに疑問を投じます。
殺人などという衝撃的な事件の後は、たいていの人はぼんやりしちゃって、そこまで頭がまわらないのが刑事コロンボ経験上の洞察です。
ケプルは、自分は極めて論理的で冷静な男であり、どんなときも仕事を忘れないのでフィルムを回収できたと説明します。
アタシの観察とピッタリ。
先生はすばらしい自制力をお持ちですな。
とコロンボお得意のホメ殺し攻撃ですね。
もうこのホメ殺しが始まったら、コロンボはそいつを疑ってるんですよ。
もう一つだけ…2 試写後の録音
ケプルとの話を終えて立ち去ろうとしたコロンボは、いつものごとく、振り返ってからの~
おお!もう一つだけ。
試写が済んだあとで観客の意見をテープにとる方法ですが質問応答の形ですか?
と、質問します。
ケプルは上映後の試写室ではなく、ロビーに出てからフィルムに関して話し合うのを録音しているだけだと答えます。
するとヘンですな。
と疑問を投じるコロンボ。
試写の後、ロビーに死体があった騒ぎの中で、録音機のスィッチを入れている違和感をコロンボは口にします。
ケプル博士は、録音機のスィッチは死体を観る前に入れたかもしれないし、試写室の中で入れたかもしれない、よく覚えていないと説明します。
コロンボは、「それなら分かります。」と答えて去っていきます。
が、もうすでにケプルにロックオン!疑ってますね。疑うどころかケプルが犯人と確信しているのかもしれません。
極めて論理的で冷静な男が、フィルムを回収するのを忘れなかったのに、録音機のスィッチをどのタイミングで押したか覚えてないなんて、矛盾してますものね!
極めて論理的で冷静な男が、数分で矛盾を露呈するのも、コロンボの疑いを受けるに十分!
うちのカミさん-2 犯罪音痴
翌日、コロンボは殺害されたノリスの妻、ノリス夫人のもとを訪れます。
コロンボはノリス夫妻の夫婦仲を尋ねます。
円満だったノリス夫妻ですが、昨夜、ノリスとタニア・ベーカーという女性と不倫していると聞いてから、夫人は夫婦関係に自信が持てなくなったようです。
タニアのボーイフレンドに呼び出され、20時半から1時間マグノリアの角で待っていたノリス夫人。
ボーイフレンドは現れず、それを証言できる人もおらず、ノリス夫人にはアリバイがないということになります。
アリバイはないけどノリスを殺していないという夫人に、コロンボは大きくうなずきます。
うちのカミさんは犯罪音痴でしてね。
推理映画見てても犯人を当てたためしがないんですよ。
そのカミさんでもアタシを殺す気になればもうちっとましなアリバイ考えますよ。
ということで、コロンボはケプル博士が犯人に仕立てようとした、ノリス夫人を全く疑っていないということになります。
コロンボの捜査
うちのカミさん-3 CMに出たい
ケプル博士が調査中のスーパーを訪れた刑事コロンボ。
ケプルは、店内に仕掛けられたモニターにコロンボが映し出されたことで、刑事の来訪に気がつきます。
ケプルは背後から登場したコロンボの顔も見ずに「おはよう。コロンボ君。」と声をかけたため、コロンボは驚きます。
そしてモニターに映った自分の姿を見つけ
あれ?アタシだ。おっかない世の中ですな。
と、ひっそりとカメラで見張られていた恐怖を口にします。
今ではたいていのお店に防犯カメラがあることは当たり前ですが、1970年代前半には考えられないことだったのですね。
コロンボは
うちのカミさんに「コマーシャル作ってる人に会った」って言ったらどうしたと思います?
部屋にすっ飛んでって自分の写真持ち出してきたもんですよ。
と定番セリフの「うちのカミさん」を使って、親近感を演出しケプルと距離をつめようとします。
コロンボのカミさんが言うには、コマーシャルに出ている主婦代表は、主婦らしくないので、本当に主婦である自分の写真をケプルに見せれば、テレビに出られるチャンスになるということです。
だけどケプルはコマーシャルは作ってないのですって!
コロンボの調査-1 ケプルの専門
続いてコロンボは、ケプルが並みの人ではない大した学者だと感じたとお得意のおべっかを使います。
ですからコロンボは、朝から図書館に行ってケプルの本を調べてきました。
コロンボが借りてきたケプルの著書名です。
「隠れた価値と人間の動機」
「宣伝と動機づけされた販売」
「刺激による意識調査とその宣伝における価値」
「人間の価値 対 人間の動機」
「心の糸とその引き方」
心理学者ケプルの専門は「刺激と意識」。
そしてたった3年で宣伝の針路を根本的に変える大変革を起こしました。
その根本は「洞察力」によるもの。
例えば今日訪れたコロンボの行動を洞察することで、コロンボがケプルに会いにきただけでなく、家庭用買い物目当てでもあったことが分かるのだそうです。
これは科学的に「身体による言語」という現象なのですって。
さて、この心理学者ケプルの著作名だけ見ても、人間の意識に刺激を与え、宣伝を成功させる、つまり人間の行動を操ることができるのがにじみ出てますね。
コロンボ最初の疑惑、殺されたノリスがなぜ自主的に試写室を出たのか、のヒントはもうたくさん溢れています。
そんなこともつゆ知らず、ケプルはコロンボに自分の研究の講釈を垂れていますよ。
コロンボの調査-2 ノリスによるケプルの解雇
コロンボはケプルに、執務室にあったケプルの銃は凶器でなかったこと、凶器は22口径であること、ノリス夫人も容疑者と確定する段階ではないこと、を伝えます。
そして殺されたノリスは今日重役会を開く予定でした。
そのトップの議題が「ケプル切り捨ての件」だったのです。
何とも言いにくいんですが…
ねえ先生 クビになるところだったんですか?
と天然ぶってズバリ聞いちゃうコロンボが好きでたまらない。
ケプルも無遠慮だとちょっと怒ってますね。
ケプルの説明によると、企画ごとに契約しているのでその企画が終わっただけだそうです。
とはいえ、ケプルとノリスの間にただならぬ闇があったことを突き止めたコロンボの中で、完全にケプル犯人のフラグは立っています。
コロンボは納得したフリをして、「お邪魔しました。」と立ち去りますが…。
コロンボの調査-3 録音テープのスィッチを入れたタイミング
スーパーを立ち去ったはずのコロンボは、少し間をおいて、再びケプルを追いかけて声をかけます。
コロンボはケプルと試写室にいた人の記憶と、録音機のスィッチを入れたタイミングを照合したいと言います。
ケプルはコロンボに、録音機のスィッチは試写室で入れたか、ノリスの死体を見る前に入れたかもしれないと説明していました。
しかしテープの出だしには、試写室で交わされた会話の録音はなく、死体を見つけて騒ぎになっている様子から始まっていました。
コロンボは再び昨夜の疑惑、死体で発見されたノリスの騒ぎの中で、どうして録音機のスィッチを入れる気になったのかとケプルに尋ねるのです。
ケプルは、非常の際は人間は異常な行動をとると説明します。
しかしコロンボは、非常事態とはいえケプルは映画のフィルムの回収は忘れなかったし、自ら語った論理的で冷静な人物像との矛盾を口にします。
追い詰められたケプルは、「ところで君は何を立証したいんだ?」と話題を変えます。
コロンボは何も立証できないが、頭の中をビー玉みたいな何かがゴロゴロゴロゴロ動いて気になるのだと説明します。
ケプルは、
「いやそれは君自身に対して不当な表現だ。
それでは君の頭は空っぽとうことになる。
ところが事実は全く逆なのだ。」
とコロンボの有能さに舌を巻きました。
コロンボは最後に、ノリス殺害時に上映された映画のフィルムを見せてくれるように、ケプルに頼みます。
コロンボはもう、ケプルが犯人だと分かっています。
そしてケプルもコロンボが自分を疑っていることを分かっています。
二つ目の事件
ケプルの犯行に気付いた者
ケプル研究所の執務室で、ケプルとくまちゃんみたいな映写技師のロジャー・ホワイトが深刻に話し込んでいます。
ロジャーは、以下のことからケプルがノリスを殺害したことに気がついています。
・ケプルが東ロビーモニターを止めたこと
・ケプルから預かったフィルムに潜在意識に働きかけるカットが入っていたこと
ロジャーは口止め料として、5万ドルをケプルに要求します。
5万ドル=1ドル280円×5万=1千400万円!
ロジャーは病身の母を抱えながら、ケプル研究所で働きながら、マグノリア劇場でバイトし、不動産の勉強もしている真面目な青年です。
5万ドルで値上がりしそうな土地を購入したいようです。
ケプルはロジャーを共犯者とするために、この協定の内容と支払う金額について明記した書類に署名するように要求します。
署名することに同意したロジャーは、別れ際のケプルに握手を求めますが、拒否されてしまいます。
この殺人の共犯にするために書類にサインを求めることは、ものすごく心理的な威嚇にはなりますね。
心理学者ならではの発想でしょうか。
しかし実際その書類にどのぐらいの効果があるかというと…
書類の存在は、殺人者の犯行を示すものであり、殺害を知りながら隠す手助けをしたロジャーにとって、どれほどの罪を背負わされるものなのか、疑問ですね。
ロジャーが問われるのは脅迫罪ぐらいでしょうか。
唯一の解決法
ケプルは、殺害されたノリス邸を訪れて、ノリス夫人が出かけるのを見計らって家に忍び込みます。
ノリス邸を家探しするケプルですが、捜し物は銃でした。
アメリカのおうちに銃があるのって本当に当たり前なんですね。
日本家屋で包丁探すくらいのノリなのかしら。
ノリス邸で銃を盗んだケプルは、その足でロジャーのバイトしているマグノリア劇場へ向かいます。
ロジャーの待機する映写室では、上映中の映画のプロジェクター音が、都合の悪い音を打ち消してくれます。
ケプルはロジャーに語りかけます。
ロジャーの発見について慎重に考慮し、検討の結果、唯一のよい解決法があったのだと。
そしてケプルはノリス邸から盗んだ銃を取り出します。
怯えるロジャーの心臓に、ケプルは容赦なく銃を撃ち込みました。
コロンボの調査-4 潜在意識への刺激
コロンボはケプル研究所で、編集技師に映画等のフィルムに入れる潜在意識のカットについて、教えてもらっています。
コロンボはケプルの著書「心のひもとその引っ張り方」という本を読んで、潜在意識への刺激について興味を持ったと、ケプルに語るのです。
ポップコーンのところまで来た時、アタシは本を閉じてぼう然としたもんです。
と熱くケプルに語るコロンボ。
つまりポップコーンの話で、ケプルのトリックが分かったんですね。
ある映画の中にほんの一コマ、ポップコーンのカットを入れるけれども、見ている観客はそのカットには気付かない。
しかし潜在意識はしっかりとポップコーンの映像をとらえているので、ポップコーンが食べたくなる。
映画館のよってはポップコーンの売上が倍に増えたというもの。
これを潜在意識のカットとコロンボは言ってますが、サブリミナル効果として有名ですね。
今は禁じられていますが、潜在意識を観客に気付かれぬままコントロールする心理的効果です。
コロンボにとって今回の殺人事件最大の謎は、殺されたノリスが試写室を出るタイミングが、なぜ殺人者に分かったか、ということでした。
ケプルが作ったノリスのための宣伝用フィルムにこのサブリミナル効果が仕掛けられていたため、ノリスの行動が予測できたことに、コロンボはすでに気がついています。
分かっていながらしつこくケプルにつきまとい、コロンボは核心に触れようとします。
しかしケプルもすっとぼけて何とかコロンボをすり抜けようとします。
そんなケプルにコロンボは言います。
正直言ってがっかりしましたよ。
あの潜在意識に刺激を与えるカットのくだりを読んだ時にこりゃ先生なら(なぜノリスが試写室を出たのか)分かると感じたんですがね。
とまあ、ノリス殺害のトリックを、ケプル自らに説明させようとしてたんですね。
どこまでもずうずうしい男ですね。
コロンボの調査-5 キャビアを食べたノリス
コロンボにがっかりしたと言われてケプルは「ご期待に反してどうも。」と謝ります。
コロンボのご期待に応えていたら、自分が殺人犯だって認めることになりますからね。
コロンボはケプルに謝るのは自分の方だと言います。
この際白状しちゃいましょう。
あなたのものを盗んだんです。
コロンボはノリス殺害の夜、研究所にあったキャビアを盗み食いしたことをケプルに謝ります。
ですがそのキャビアがしょっぱすぎて、とてものどが渇いたことを付け加えます。
そして殺害されたノリスもまた、そのキャビアを食べたことを解剖によって証明されたことをケプルに伝えるのです。
ねえ先生。
こうやって新しいデータも出たことではありこの点についてご意見があると思うんですがねぇ。
とコロンボはケプルを追い詰めます。
ケプルはとうとう
「つまりある人物がのどが渇きそこに冷たい飲み物の潜在意識に訴えるカットを与えれば多分席を立って試写室を出るだろう。
そして水飲み場に行くだろうというんですか?」
と自らトリックを暴露しちゃいましたね~。
どうもありがとう。大助かりです。
というコロンボに、ケプルは「あんた面白い人ですな。大変面白い。」と皮肉を言います。
褒めてくだすったんでしょうな?
と返すコロンボ。
ケプルは潜在意識のカットでノリスの行動を操れたとしても、フィルムに編集した後がないと立証はできないと言います。
もちろんコロンボはすでにフィルムを調べていますが、編集した後はありませんでした。
仮にプリントがもう一つあったとしても、今回の知能の高い犯人がそんな証拠を残すはずもなく、自分でフィルムを現像しているというのがコロンボの見解です。
二人目の銃殺事件
ケプル研究所で聞き込み中のコロンボに、映写技師ロジャー・ホワイトが銃殺された知らせが入ります。
コロンボはケプルにロジャーの死を伝えます。
ケプルは、コロンボがロジャー殺害現場にケプルに同行してほしがっていることを言い当てます。
さらにケプルは、コロンボがノリス殺しの犯人はケプルと信じ込んでいることも言い当てます。
アタシがそんなことを思ってたんならこうチョイチョイお邪魔するわけないでしょ?
と言い訳するコロンボ。
コロンボは嘘つきですね。
犯人と目ぼしをつけたら最後、犯罪を立証できるまでつきまとうし、犯人ではないと踏んだらあっさり引きますものね。
さらにコロンボは、銃殺されたロジャーは、研究所のスタッフであったし、ケプルなら頼りになるから同行してほしいのだと付け加えます。
ホント先生立派な刑事になれます。
と、ケプルの洞察力や知力を褒めたたえるコロンボなのでした。
ロジャー殺害のアリバイ
ロジャー殺害現場に、ケプルの運転する車で一緒に向かうことになった刑事コロンボ。
ケプルはまだ殺害現場の場所を聞いていないので、コロンボに方向を尋ねます。
「へへへ…知ってたら大変だ。」
そう…その通り。
とうなづくコロンボ。
二人の駆け引き、怖いですね~。
フツーに考えて、人殺しと、その人殺しが、自分が人殺しだと気がついている人と、車という密室で二人きりになるって怖いですよね。
わたしは絶対にイヤだ。
ロジャー殺害現場のマグノリア劇場についた人殺しと刑事。
殺害時刻:2巻目のフィルムが上映され終わった7時半から8時5分前
凶器:拳銃の持ち主はヴィクター・ノリス
この事実にコロンボは頭を抱えます。
事実だけ見れば、ノリス夫人が殺人犯として極めて疑わしいことになります。
そして殺害時刻の7時30分から8時前まで、コロンボはケプルと一緒にいたのです。
ケプルのアリバイはコロンボが証明できるということですね。
これはちょっと崩せませんな。
とコロンボは認めるしかありませんね。
コロンボの調査-6 タニア・ベーカーの行方
コロンボは、ゴルフ場でゴルフを楽しんでいるケプルの元へ、ゴルフカートに乗って訪れます。
コロンボは、ノリスと愛人関係にあったタニア・ベーカーを探しているとケプルに伝えます。
タニア・ベーカーのボーイフレンドをたどれば、ノリス夫人に電話をかけマグノリアまで呼び出した人物が分かるからですね。
ケプルはタニア・ベーカーとは会ったこともないと言います。
しかしコロンボはすでに何もかも調査済。
タニアはノリス殺害の前日、リスボンまで旅に出て泊まったホテルまで調べがついていました。
コロンボは、タニアがケプルに口止めされていることを見越して、ケプルの名を語ってタニアに料金先払いの電話をかけたのです。
やあタニア。
とコロンボが声をかけると、タニアは「あらケプルじゃないわ。声が違う。」と言って電話を切りました。
声を知っているならケプルとタニアに付き合いがあったのではとせまるコロンボ。
ケプルはタニアと関係があったことを認めましたが、妻がいるのでおおやけにできなかったと言い訳します。
コロンボは
アタシの専門は殺しで風紀係じゃないし。
とタニアとケプルの関係には目をつむることを伝えます。
さて、コロンボの追い上げに、極めて冷静で論理的な男のはずのケプルのゴルフはボロボロですね。
コロンボの調査-7 ロジャー殺害のアリバイ崩し
コロンボがなぜゴルフ場までケプルに会いに来たのか、要件を言うようにせまるケプル。
コロンボは
先生が犯人だと思うんです。
とはっきりと宣告しました。
ケプルはノリス殺害時には映写室にいたというアリバイがあると言いますが、コロンボはテープの声が流れていただけだとそのアリバイを崩します。
ケプルは自分の打ったゴルフボールが、打ちにくい木の根の草むらの中に入り込んでいるのを見つけました。
「こういうときは、(広くて打ちやすい所に)ボールを投げだすのさ。
誰も見てないからな。これでペナルティーなしだ。」
と言うケプルは、証拠さえなければ犯罪は成立しないという比喩でしょうか。
もうほぼ自分が犯人って認めちゃってますね~。
またロジャー殺害時もケプルのアリバイは立証できないとコロンボは言います。
テープの2巻目がまわっていた7時30分より後に殺されたという推理でしたが、2巻目をまわしたのはロジャーではなく犯人だった可能性があることを示唆しました。
すると7時30分より前に殺害が行われたと考えられるわけです。
ロジャーは上映中のフィルムの終わり小銭を差し込んでおき、小銭が落ちる音を新しいフィルムをかける合図にしていました。
その小銭がなかったので、2巻目をかけたのはケプルだとコロンボは言い張ります。
ケプルは物的証拠がない以上、自分の犯罪は立証できないと言います。
あきらめたように帰ろうとするコロンボですが、挑戦的なセリフを口にします。
勝には最後までゲームを捨てないことだって。
「その通りだ。コロンボ君。」といってケプルは去ってゆきます。
コロンボの追い込み
凶器という物的証拠
コロンボは、どこかに隠されているはずの凶器という物的証拠のありかに頭を悩ませています。
同僚に相談すると
「容疑者本人に頼んでみろ。『お願いだから聞かせてくれ。凶器はどこに隠したんだ?』ってな。
全くお前さんとつきあってると切りがない。いい加減に帰してくれんか?」
とうんざり顔。
コロンボは犯人だけでなく、謎があると同僚にもしつこいんですね。
しかしこの同僚の、「容疑者本人に凶器の隠し場所を聞く」というアドバイスが、何かヒントになったようですよ。
コロンボはカメラマンのデニスに声をかけ、カプルの留守を見計らって執務室に忍び込むのです。
コロンボのトリック返し
コロンボは執務室を調査している様子の写真を、カメラマンのデニスにたくさん撮影させます。
デニスは「令状なしの家宅捜査はさぁ。」とコロンボを咎めますが、
捜査じゃないよ。見てるだけだよ。はい映して。
と譲りません。
翌日、ケプルは新たなクライアントを招き、ノリスのために作ったフィルムを上映します。
そのクライアントの要求にぴったりはまったフィルムだと判断したからです。
クライアントと一緒に、フィルム上映を観ているケプルですが、なにやらそわそわ落ち着かない様子。
ケプルは席を外して、執務室へと向かいます。
執務室の照明に隠された銃のしかけを探します。
そのしかけを手にしたとたん、カメラのシャッターが切られ、コロンボ登場です。
やっと証拠がつかめましたよ。それ何ですか?
銃のしかけは、口径の変換装置でした。
変換装置は22口径で、ケプルの持っている45口径の銃にもピッタシ収まります。
恐れ入ったなぁ。
変換装置。
アタシは考えもしなかったなぁ。
コロンボはとうとう物的証拠を見つけ出したのです。
凶器は必ず執務室にあるとにらんでいたコロンボ。
ケプルはコロンボが、潜在意識のカットを使って、自分の行動をコントロールしたことに気がつきます。
コロンボが昨夜執務室で調査中の写真をたくさん撮影したのは、上映フィルムにはさみこむためでした。
コロンボが照明を探しているカットが、ケプルの潜在意識に働きかけ、不安をあおり、凶器の隠し場所を確認するという行動をうながしたのです。
ケプルは
「これだけは君も認めるだろう。
僕の方式を利用したからこそ解決できたんだ。」
と負け惜しみか自画自賛ともいえないセリフを口にします。
そうなんですよ。できりゃ感謝状を差し上げたいぐらいです。
とコロンボは非常にコロンボらしい言葉で返します。
ケプルは笑いながら涙をこぼします。
狂気を含んだ笑み、印象深いシーンです。
この涙は自分の専門分野で足元を救われた悲しみか悔しさか感動か…。
コロンボの王手
今回の殺人は、被害者の潜在意識をコントロールして、数分で目的を遂げるという非常にスマートで鮮やかな犯行でした。
さらに鮮やかなのが、コロンボの王手王手でした。
殺人者のトリックを使って、自ら凶器の隠し場所を示す行動をさせる、でしたね。
この、殺人者の使った完全犯罪トリックを使って、証拠を見つけ出すというのは第一話「殺人処方箋/Prescription:Murder」でも行われています。
今回の第21話「意識の下の映像/Double Exposure」ではコロンボはキャビアを食べることでまず被害者と同化し、殺人者の専門分野を調べることで、殺人者とも同化してゆきます。
コロンボの推理テクニックの一つに、殺人犯の専門分野に徹底的に迫り、犯人と同化することによって、トリックを暴くという方法があります。
殺人犯と同じテクニックを使って犯行を暴くのですから、非常に鮮やかですし視聴者にとっても爽快で、カタルシスも大きくなる、非常にコロンボらしいクライマックスですね。
コロンボ史上に残る見事な王手だったと感服しています。
コロンボこそ、極上の心理学者でもあり、メンタリストですね~。
フツーにカルト宗教の教祖になれそうで怖い…。
わたしはもちろん、コロンボが教祖ならそのカルト宗教に入ります!
ではまた刑事コロンボでお会いしましょう!
と言いたいところですが、コロンボシリーズはこの21話を持ってしばらくお休みすることにしました。
書くのにとても時間がかかることと、他に書きたいテーマが出てきたからです。
次回より、この恋愛要素のほぼない刑事コロンボと打って変わり、初老であるわたしの恋愛日記を綴ってゆきます。
読んでくださったら嬉しいです。
刑事コロンボが、視聴できる動画サービスは、以下の二つです。
U-NEXT
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